連載|世界の不登校、親のかかわり方(第2回/全5〜6回)
第1回では、日本・アメリカ・イギリスで「義務教育の前提」が違うことを見ました。なかでもアメリカは、ルールを決めるのが「国」ではなく「州」という点が大きな特徴でした。今回はそのアメリカのホームスクーリング(家庭を主とした学び)を、もう一歩ふみこんで見ていきます。「アメリカは自由にホームスクールできる」——よく聞く言い方ですが、実際は州によって手続きの重さがまるで違います。届出さえ要らない州もあれば、毎年の報告やテストを求める州もある。その”実際”をたどると、「学びの選択肢は、国や地域の設計で大きく変わる」ことが見えてきます。
💡 はじめに(読む前に)
この記事は、アメリカの制度を「正解」として紹介するものではありません。ホームスクールの規制は州ごとに大きく異なり、更新も早い分野です。ここで紹介するのは2026年9月時点で確認できた枠組みで、あくまで「見方を広げる材料」としてお読みください。実際に検討される場合は、必ず各州・各学区の公式情報で最新の要件をご確認ください。日本の制度や学校を否定する意図はありません。
アメリカでホームスクーリングはどれくらい広がっている?
まず規模感から。アメリカの国の統計機関であるNCES(全米教育統計センター)の調査(Census(国勢調査局)が2023年に実施)によると、2022〜23学年度に、幼稚園〜高校(K-12)の子どものうち約3.4%がホームスクーリングだったとされています。全米のK-12はおよそ5,300万人規模なので、単純計算するとおおよそ180万人前後という規模感です(あくまで調査にもとづく推計値です)。
この3.4%という数字は、コロナ禍前の2018〜19学年度の2.8%より高く、さらに20年ほど前(1999年)の1.7%と比べると、およそ倍近くに増えています(いずれもNCES/Pew Research Centerによる整理)。ホームスクーリングは、一部の特別な家庭のものから、選択肢の一つとして広がってきた——数字はそんな流れを示しています。ただし、これは「学校より良い」という話ではなく、選び方の幅が広がってきたという意味あいで受け取るのが正確です。
大前提:ルールを決めるのは「州」
第1回でもふれたとおり、アメリカには連邦(国)としての統一的な就学ルールがありません。教育は基本的に各州の権限で、ホームスクーリング自体は全50州で合法とされています。合法という点は共通していても、「合法であるために何をしなければならないか」——ここが州で大きく分かれます。
イメージとしては、「届出がいるかどうか」「テストや報告がいるかどうか」「記録の提出がいるかどうか」という手続きの重さが、州ごとにグラデーションになっている、という感じです。ここでは対照的な例として、規制がゆるやかなテキサスと、報告が手厚いニューヨーク・ペンシルベニアを並べてみます。
規制がゆるやかな州の例:テキサス
テキサスは、アメリカのなかでもホームスクールの手続きが特に軽い州として知られています。州の教育当局であるテキサス州教育庁(TEA)は公式サイトで、ホームスクールのプログラムを「規制・登録・監視・承認・認定しない(does not regulate, index, monitor, approve, register, or accredit)」と明記しています(TEA)。
届出も、テストも、報告もいらない
テキサスでは、家庭でホームスクールを始めるにあたって州や学区への届出は求められていません。定期的なテストの提出も、学習記録の報告もありません。法的な背景には、1994年のテキサス州最高裁の判断(Leeper判決)があり、家庭での教育は「私立学校」の一種として扱われ、就学義務の対象から外れると整理されています(TEA)。
“何もしなくていい”わけではない
ただし、まったくの野放しというわけではありません。テキサスでは、実体のある(bona fide)カリキュラムで、「良き市民であること(good citizenship)」を含む学習を行うことが求められています(TEA)。届出や監視がない代わりに、「きちんと教育を行う」という前提は保護者の責任として残っている、という設計です。手続きは軽いけれど、責任は家庭が引き受ける——そう言い換えられます。
報告が手厚い州の例:ニューヨーク/ペンシルベニア
一方で、毎年いくつもの手続きを求める州もあります。代表例がニューヨーク州とペンシルベニア州です。同じ「合法」でも、テキサスとはかなり景色が違います。
ニューヨーク州:計画書+四半期ごとの報告+年次評価
ニューヨーク州教育局(NYSED)の案内によると、家庭教育(home instruction)を行う保護者には、州規則(Commissioner’s Regulations 第100.10条)にもとづき、おおむね次のような手続きが求められます。
① 毎年、教育を行う意思を学区に通知(letter of intent)する
② 科目・教材などを盛り込んだ個別家庭教育計画(IHIP:Individualized Home Instruction Plan)を提出する
③ 学年の途中で四半期報告を計4回提出する
④ 学年末に年次評価(標準化テストの結果、または記述式の評価)を提出する
届出だけでなく、「何を、どれくらい学んだか」を年に何度も学区に示す仕組みになっているのが特徴です。テキサスの「届出不要」とは、まさに対照的です。
ペンシルベニア州:宣誓書+ポートフォリオ+第三者評価
ペンシルベニア州も手続きが手厚い州のひとつです。州教育省(PDE)の解説によると、州法(24 P.S. §13-1327.1、いわゆるAct 169)にもとづき、次のような対応が必要とされます。
① 毎年8月1日までに、居住学区の教育長へ公証を受けた宣誓書(affidavit)と教育目標の概要などを提出する
② 学習の記録・作品・テスト結果などをまとめたポートフォリオを保管する
③ 毎年、有資格の評価者(州認定教員や心理士など)による評価を受ける
④ 一定学年(3・5・8年生)で標準化テストを受ける
特徴的なのは、「家庭の外の第三者(有資格の評価者)」がチェックに関わる点です。家庭にまかせきりにせず、外部の目を制度に組み込んでいる設計だと言えます。
3つの州を並べて見ると
ここまでを、大づかみに整理します(2026年9月時点。要件は変わることがあり、必ず各州・学区の公式情報でご確認ください)。
| 州 | 届出 | テスト・報告・記録 |
|---|---|---|
| テキサス | 不要(州・学区への登録なし) | 州へのテスト・報告の提出は求められない。ただし実体あるカリキュラム(良き市民であることを含む)は必要。 |
| ニューヨーク | 毎年、学区へ意思通知+計画書(IHIP) | 四半期報告を計4回+学年末に年次評価(標準化テストまたは記述評価)。 |
| ペンシルベニア | 毎年8/1までに公証済み宣誓書を教育長へ | ポートフォリオ保管+有資格評価者の年次評価+3・5・8年生で標準化テスト。 |
同じ「アメリカ」「同じ合法」でも、家庭が引き受ける手続きの重さはこれだけ違います。どちらが優れているという話ではありません。「家庭の自由を広くとる設計」も「外部のチェックを組み込む設計」も、それぞれに考え方(自由をどう尊重するか/学びの質をどう担保するか)の違いがあらわれています。
日本の保護者にとって、これは何を意味する?
ここで大切なのは、アメリカのやり方を日本にそのまま当てはめることではありません。日本には日本の制度があり、この連載も「ホームスクールにしましょう」と勧めるものではありません。それでも、州によって設計がここまで違うという事実は、「学びの選択肢は、国や地域の”設計”しだいで大きく変わる」ことを教えてくれます。
「学校に行かない」ことに強い不安を感じるとき、その背景には「学校が唯一の当たり前の場」という前提があります。でも、世界を見わたせば、その前提のつくり方は一つではありません。前提が違えば、取りうる道も、親のかかわり方も変わってくる。それを知ることは、いまの状況を「うちだけの失敗」と抱え込みすぎないための、ひとつの余白になります。日本でも、教育支援センターやフリースクール、通信制、家庭での学びなど、選択肢は着実に広がっています。大切なのは、制度をまねることではなく、「この子にとっての学びと安心はどこにあるか」を落ち着いて考える視点を持つことだと、CoConは考えています。
💡 今日からできる3つの視点シフト
① 「制度は一つではない」と知る:同じ国でも設計はさまざま。いまの前提は”絶対”ではないと知るだけで、少し肩の力が抜けます。
② 「自由」と「支え」はセットで見る:手続きが軽い=良い、重い=悪い、ではありません。自由の裏にある家庭の負担も含めて眺めてみる。
③ 比べる相手を変える:「他の子」ではなく「昨日のこの子」と比べる。海外の多様な学び方は、その練習台になります。
連載のこれから(次回予告)
「世界の不登校、親のかかわり方」、次回は海を渡ってイギリスへ。学校以外を選ぶとき、親は具体的に何をするのかを見ていきます(構成は変わることがあります)。
- 第3回:イギリスのEHE(選択的家庭教育)——「学校以外」を選ぶとき、親は何をする?
- 第4回:北欧の学び——「登校しない」をどう支える?
- 第5回:親のかかわり方の国際比較——見守る/伴走する のバランス
- 第6回:日本に持ち帰れる実践——制度が違っても真似できること
不登校の家庭を、ひとりにしない。CoConが、隣で考えます。世界の事例は、日本の”当たり前”を少しゆるめて、あなたと子どもに合う道を探すためのヒントになるはずです。
出典(一次情報)
- Texas Education Agency「Home Schooling」(テキサス州教育庁・公式)https://tea.texas.gov/families-and-students/finding-school-your-child/home-schooling
- New York State Education Department「Home Instruction — Questions and Answers」(ニューヨーク州教育局・公式/Commissioner’s Regulations §100.10)https://www.nysed.gov/nonpublic-schools/home-instruction-questions-and-answers
- Pennsylvania Department of Education「Home Education Program」(ペンシルベニア州教育省・公式/24 P.S. §13-1327.1, Act 169)https://www.pa.gov/agencies/education/resources/policies-acts-and-laws/basic-education-circulars-becs/purdons-statutes/home-education-program
- NCES(全米教育統計センター)「Fast Facts: Homeschooling」https://nces.ed.gov/fastfacts/display.asp?id=91
- Pew Research Center「A look at homeschooling in the U.S.」(2025年2月/NCES・国勢調査局PFI調査を整理)https://www.pewresearch.org/short-reads/2025/02/20/a-look-at-homeschooling-in-the-us/
※本記事の制度に関する記述は2026年9月時点の情報です。アメリカのホームスクール規制は州ごとに大きく異なり、法改正で変わることもあります。各州・各学区の要件は、必ず公式情報で最新のものをご確認ください。統計は調査にもとづく推計値であり、調査年や手法によって数値は変わります。
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監修:株式会社CoCon 代表 洲﨑祐貴
