「学校に行かない」を国はどう捉える? ― 日本・アメリカ・イギリスの前提の違い

CoCon編集部

連載|世界の不登校、親のかかわり方(第1回/全5〜6回)

「学校に行かない」——この一言を、社会はどう受け止めるのか。じつは、その”受け止め方の土台”は国によってかなり違います。日本・アメリカ・イギリスでは、そもそも「義務教育とは何か」という前提が異なるのです。この連載では、海外の制度や親のかかわり方をたどりながら、「うちの子だけではない」「学校に戻ることだけが道ではない。でも学校を否定するわけでもない」という視野を、いっしょに広げていきます。第1回は、各国の”前提の違い”から始めます。

💡 はじめに(読む前に)

この記事は、どこかの国の制度が「正解」だと示すものではありません。制度は国や地域で大きく異なり、更新も早い分野です。ここで紹介するのは2026年9月時点の枠組みで、あくまで「見方を広げる材料」としてお読みください。お子さんの進路の判断は、お住まいの地域の窓口や専門家とご相談ください。

「学校に行かせる義務」か、「教育を受けさせる義務」か

まず押さえたいのは、義務教育をめぐる「義務」の中身です。ざっくり言うと、日本は「学校に就学させる義務」、アメリカ・イギリスは「教育を受けさせる義務」という性格の違いがあります。言葉は似ていますが、力点の置きどころが違います。

日本:保護者が子を「学校に就学させる」義務(就学義務)

日本国憲法第26条第2項は「すべて国民は…その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」と定め、これを受けて学校教育法第16条・第17条は、保護者に対し、子を小学校・中学校などに「就学させる義務」を課しています(文部科学省)。つまり日本では、義務の中心が「学校という場に通わせること」に置かれているのが特徴です。日本でホームスクーリング(家庭を主とした学び)が制度としてなじみにくいのは、この”学校を基準にした設計”が背景にあります。

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ただし、これは「学校に行けない子や家庭を罰するための義務」ではありません。就学義務は保護者に向けられたもので、不登校そのものが処罰されるわけではないのです。実際、文部科学省は2019年10月25日の通知で、不登校支援は「『学校に登校する』という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要がある」と明記しています(文部科学省 通知)。「学校復帰だけがゴールではない」という考え方は、国の方針としても示されているのです。

イギリス:教育は義務、でも「学校」は義務ではない

イングランドの教育法(Education Act 1996)第7条は、就学年齢の子の保護者に対し、子が「その年齢・能力・適性等にふさわしい効果的なフルタイムの教育を受けるようにさせる義務」を課しています。そしてその手段は「学校への規則的な通学によって、または”それ以外の方法(or otherwise)”によって」と定められています(legislation.gov.uk)。ここから、イギリスではよく「教育は義務だが、学校(に通うこと)は義務ではない」と説明されます。

この「それ以外の方法」の代表が、EHE(Elective Home Education/選択的家庭教育)です。保護者が学校ではなく家庭を中心に教育を行う選択で、イングランドでは合法的な選択肢の一つとして政府ガイダンス(Department for Education)にも位置づけられています。家庭教育では国のカリキュラム(national curriculum)に従う必要はなく、柔軟な学びが認められています。次回以降の連載で、このEHEをくわしく取り上げます。

アメリカ:ルールは「国」ではなく「州」が決める

アメリカには連邦(国)としての統一的な就学ルールがありません。教育は基本的に各州の権限で、就学義務(compulsory attendance)の対象年齢もおおむね5〜7歳から16〜18歳までと州によって異なります。そのうえで、ホームスクーリングは50州すべてで合法とされ、義務を満たす手段の一つとして認められています。

ただし規制の強さは州でかなり幅があります。届け出さえ不要な州もあれば、届け出に加えて年1回の学力テストや学習記録(ポートフォリオ)の提出を求める州もあります。「アメリカ=自由にホームスクールできる」と一括りにはできず、どの州かで前提がまったく変わる、という点が特徴です。

3か国を並べて見ると:前提の地図

ここまでを、大づかみに整理します(2026年9月時点。細部は地域・州で異なります)。

義務の性格 学校以外の学び
日本 就学義務(学校に就学させる義務)=「場」が基準 家庭教育は制度上位置づけが薄い。ただし不登校は「社会的自立」を目標に支援。
イギリス(イングランド) 教育を受けさせる義務=「中身」が基準(学校か”それ以外”か選べる) EHE(選択的家庭教育)が合法な選択肢。
アメリカ 就学義務は各州が規定(年齢・要件が州で異なる) ホームスクールは全50州で合法。規制の強さは州差が大きい。

こうして並べると、日本は「学校という場所」を基準に、アメリカ・イギリスは「教育の中身」を基準に組み立てられている、という違いが見えてきます。どちらが優れているという話ではありません。前提が違えば、「学校に行かない」ことの社会的な意味合いも変わってくる、ということです。

この違いは、保護者にとって何を意味する?

「学校に行かない」ことに強い不安や引け目を感じてしまうとき、その背景には、日本の「学校=当たり前の場」という前提が深く根づいていることがあります。あなたやお子さんの努力が足りないからではありません。前提そのものが、社会の設計によって形づくられているのです。

視野を広げると、世界には「学校に通うこと」と「教育を受けること」を切り分けて考える国があります。それを知ることは、「学校に戻る/戻らない」の二択で自分を追い込みすぎないための、ひとつの余白になります。もちろん、日本には日本の制度と良さがあり、学校が合う子・戻れる子もたくさんいます。学校を否定する必要はありません。大切なのは、「学校か、それ以外か」ではなく「この子にとっての学びと安心はどこにあるか」を考える視点を持てることだと、CoConは考えています。

💡 今日からできる3つの視点シフト

「行けない」を責め言葉にしない:制度の前提の話であって、家庭の失敗ではないと知る。
「学校か家か」の二択から離れる:教育支援センター、フリースクール、通信制、家庭での学び…選択肢を”並べて”眺めてみる。
比べる相手を変える:「他の子」ではなく「昨日のこの子」と比べる。海外の多様な学び方は、その練習台になります。

連載のこれから(次回予告)

「世界の不登校、親のかかわり方」は、次のような回を予定しています(構成は変わることがあります)。

  • 第2回:アメリカのホームスクーリング——広がりと、州ごとのルールの実際
  • 第3回:イギリスのEHE(選択的家庭教育)——「学校以外」を選ぶとき、親は何をする?
  • 第4回:北欧の学び——「登校しない」をどう支える?
  • 第5回:親のかかわり方の国際比較——見守る/伴走する のバランス
  • 第6回:日本に持ち帰れる実践——制度が違っても真似できること

不登校の家庭を、ひとりにしない。CoConが、隣で考えます。世界の事例は、日本の”当たり前”を少しゆるめて、あなたと子どもに合う道を探すためのヒントになるはずです。

出典(一次情報)

※本記事の制度に関する記述は2026年9月時点の情報です。各国・各州の制度は改正されることがあり、最新の運用はお住まいの地域の窓口・公式情報をご確認ください。アメリカのホームスクール規制の詳細は州ごとに大きく異なります。

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監修:株式会社CoCon 代表 洲﨑祐貴

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この記事を書いた人

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不登校支援ポータルCoCon編集部。当事者家庭への取材と一次情報をもとに記事を作成しています。

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