「学校が子どもに適応する」を体現した街|岡崎市の校内フリースクール『F組』

CoCon編集部

 

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「学校が子どもに適応する」を体現した街。
岡崎市の校内フリースクール『F組』を、マズローの欲求階層から読み解く

「不登校の子のための教室は、学校の中に必要か。それとも学校の外に必要か」──この問いに、愛知県岡崎市は「学校の中に、まったく新しい発想でつくる」と答えました。
岡崎市は、市内すべての中学校(20校)に、校内フリースクール『F組』を設置。従来の「校内適応指導教室」の考え方を180度転換した取り組みとして、全国から注目を集めています。
この記事では、F組がなぜ「魅力ある学校づくり」につながるのか、その本質をマズローの欲求階層説と重ねて読み解いていきます。

1. 岡崎市『F組』とは──全20中学校に広がった校内フリースクール

岡崎市の校内フリースクール『F組』は、2020年度に市内3校(福岡中・甲山中・矢作中)でパイロット的にスタートしました。それまで市内の中学校に設置されていた「校内適応指導教室」を発展的に解消させる形で誕生したのが、この『F組』です。

その後、着実に拡大を続け、2023年度(令和5年度)に全20中学校への設置が完了。全国的にも先駆的な取り組みとして、教育新聞や東洋経済など多くのメディアが取材に入りました。

F組の名前の由来

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Free(自由)/Fit(みんなに合う)/Fun(楽しい)/Future(未来に向かって)
この4つの「F」の頭文字を組み合わせて『F組』と名付けられました。

F組の対象は、長期欠席者に限りません。「何らかの困り感を抱えていて、通常学級に入りづらい状態にある生徒」で、F組での指導・援助が効果的だと判断されれば、誰でも通うことができます。長期欠席の子、外国籍のお子さん、発達特性のあるお子さんなど、多様な背景の子どもたちが集まる場になっています。

2. 「適応指導教室」との決定的な違い──F組が掲げる5つの理念

従来の「適応指導教室」という名称には、「通常の学級に適応できるように、子どもの側を指導する」というニュアンスが、どうしても含まれていました。主語は”子ども”だったのです。

F組が示したのは、この発想の反転でした。「適応するのは子どもではなく、学校の側だ」──主語を、”子ども”から”学校”へ。この一点が、F組を単なる別室登校の場所ではなく、”新しい教育モデル”にした核心です。

岡崎市教育相談センターは、F組が掲げる理念として次の5つを挙げています。

理念① 適応するのは、子どもではなく学校

学校が子どもに適応する。従来の「適応指導」の発想を、根本から反転させています。

理念② 通常の学級と同じ、”1つの学級”として扱う

“別室”でも”避難場所”でもなく、通常学級と対等な「1つのクラス」。この位置づけが、子どもと教員双方の見方を変えます。

理念③ 多様性を受け入れられる”エース級の教員”を担任に

校内でも信頼の厚いベテラン教員を、F組の担任に配置。「はみ出しの受け皿」ではなく、”信頼される場”としての基盤を作ります。

理念④ いつでも温かく迎える”支援員”を市の予算で配置

担任1人ではなく、必ず支援員をペアで配置。しかもその人件費を市の予算で確保している点が、制度としての本気度を示します。

理念⑤ ゴールは”教室復帰”ではなく”社会的自立”

通常学級に戻すことをゴールにしない。大人になって社会に出ていくまでの”心のエネルギー”を貯める場として設計されています。

3. マズローの欲求階層で読み解く、F組の設計思想

F組の”新しさ”は、感覚的には伝わっても、なぜここまで違うのか、言語化するのは難しい。
そこで、アメリカの心理学者マズローの「欲求階層説」を補助線として使ってみましょう。

マズローの欲求階層説(5段階)

①生理的欲求:食事、睡眠、休息

②安全欲求:身の安全、心理的な安全

③社会的欲求(所属・愛の欲求):どこかに所属している、仲間がいる感覚

④承認欲求:他者から認められる、価値ある存在だと感じる

⑤自己実現欲求:自分らしく在り、可能性を発揮する

※下位の欲求が満たされて初めて、上位の欲求に手が届く、というのが基本の考え方です。

この5段階を頭に置いて、従来の「適応指導教室」とF組の違いを並べてみると、明確な差が見えてきます。

従来の「適応指導教室」の設計

従来の適応指導教室の多くは、”通常学級に戻すため”の場として設計されていました。この場合、目指されるのは③社会的欲求(所属欲求)=クラスに戻れる、教室に居場所があるのレベルまで。「所属できるようにする」がゴールでした。

しかしこの設計では、「②安全欲求(心理的安全性)」が十分に満たされないまま、③に急かされる構造になりがちです。「まずクラスに戻ろう」の圧力が、②の土台を崩してしまう。結果、子どもはさらに追い詰められる──というジレンマが起きます。

F組の設計は、②から⑤まで意識的にカバー

対してF組は、5段階すべてを丁寧に積み上げていく設計です。

▶ ②安全欲求(心理的安全性)を最優先

畳、ソファ、クッション。アットホームな空間設計。教員の側から「ここに居ていい」というメッセージを最初に置く。まず、ここが徹底されます。

▶ ③所属欲求:F組そのものが”1つの学級”

通常学級と対等な”クラス”として扱われる。F組の一員であるという所属感が、居場所を作ります。1年生から3年生が一緒に過ごすことで、縦の関係も生まれる。

▶ ④承認欲求:小さな成功体験の積み重ね

「毎日、自分で決めたことを自分で達成していく」。「今日、これができた」の積み重ねが、自己有用感につながる。文化祭でギターを披露、ハンドメイド作品を販売、応援動画の制作──活躍の場が用意されています。

▶ ⑤自己実現欲求:進路と社会的自立を見据えて

「教室復帰」ではなく「社会的自立」がゴール。大人になって社会に出ていくときに、”自分で動き出せる”心のエネルギーを貯める場として、F組は設計されています。

従来の適応指導教室が”③に押し込もうとして②を壊す”構造だったのに対し、F組は②を徹底的に守った上で、③④⑤まで意識的に手を伸ばす設計になっている。この差が、”新しさ”の正体です。

4. F組の日常──「1日の過ごし方は自分で決める」

F組の教室は、通常学級とは違う雰囲気です。畳のスペース、ソファ、クッション。「心理的安全性を担保できる場所」であることを、空間そのものが伝えます。

通うのは、1校あたり5〜15人ほど。1年生から3年生までが、同じ教室で過ごします。上級生が下学年の子に何かを教える関係から、少しずつコミュニケーションに慣れていく子も多いといいます。

大まかな流れは、午前中は学習、午後は運動やボードゲームなどのコミュニケーション時間。ただし──

その中でどう過ごすかは、”自分で決める”

理科を勉強している子の隣で、絵を描いている子がいる。1時間だけ通常学級で授業を受けて戻ってくる子もいる。タブレット端末で通常授業をリモート受講する子もいる。各自が、自分のペースで、自分のスケジュールを立てる。これがF組の日常です。

5. F組を支える”教師とスタッフの心の広さ”──それがフィロソフィー

F組の仕組みだけを真似しても、うまく機能しないでしょう。この取り組みの根っこにあるのは、子どもを支える教師とスタッフの”心の広さ”です。それこそがF組のフィロソフィーだと、私たちCoConは感じています。

岡崎市の担当者はこう言います。「昔は、何がなんでも学校や学級に戻してあげることが目標にされていました。でも今は、それだけではない。子どもたちはいつか学校から巣立ち、社会に出ていく。それに向けて支援していくことを、第一に掲げなければならない」。

この視座を、担任と支援員が共有していること。「戻す」のではなく「支える」という腹の据わり方。そして「1つの学級」として位置づけられているからこその、”仲間の教員”としてのF組担任への敬意。これらが積み重なって、F組は”別室”ではなく”クラス”として機能しています。

象徴的なのは、F組の担当教員たちが市内全校で定期的にディスカッションの機会を持っていることです。「うちの学校ではこう工夫している」「あの生徒はこんな成長を見せた」──情報と実践知が、市内で循環している。これが、単発の取り組みで終わらず、”市の教育文化”としてF組を根付かせている理由でしょう。

F組のフィロソフィー、3つの核

「戻す」ではなく「支える」と腹を括る

② 通常学級と “対等な一つの学級” として位置づける

③ 担当者間で 実践知を市内で共有 し、文化として育てる

6. 次の展開──『S組』、そして小学校への広がり

2023年度に中学校20校でF組の設置が完了した岡崎市は、そこで足を止めていません。

現在、小学校への校内フリースクールの展開が、段階的に進められています。中学校でF組の実践知が蓄積された今、その知見を小学校の現場にどう移していくか──次のフェーズが始まっているのです。

そして、新たに動き出しているのが『S組』という取り組み。「Sudden(急な対応)」「Support(支援)」「Small step(小さな一歩)」──いずれの解釈もありうる、この新しい枠組みは、中学校10校で先行導入されているとされます。F組を土台としながら、より柔軟に、より段階的に、子どもたちの多様なニーズに応える設計として設計されているようです。

中学校でのF組、そして次に来るS組。「学校が子どもに適応する」という理念を、一過性のスローガンで終わらせず、制度として深化させ続けているのが、岡崎市の凄さです。

7. CoConから、この記事を読んでくださった方へ

岡崎市のF組の話を聞いて、「うちの自治体にもあったらいいのに」と思われた方も、多いのではないでしょうか。

全国を見渡すと、F組のような校内フリースクールを設置している自治体は、まだ限られています。いま、あなたのお子さんが通う学校に、F組はないかもしれない。それは変えようのない現実です。

でも、F組が示してくれた「学校が子どもに適応する」という視座は、今日から家庭でも持てるものです。「学校に適応させようとする関わり」ではなく、「その子のペースに、家族の側が適応する関わり」。それだけで、家庭という”最小単位のF組”は始められます。

CoConは、そんなご家庭の伴走を仕事にしています。全国の先進事例を紹介しながら、日々のご相談に寄り添い、ときには”もう一つの選択肢”を一緒に探す。F組のフィロソフィーを、一つのお守りとして共有しながら、進んでいけたらと願っています。

不登校の家庭をひとりにしない。

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この記事を書いた人

CoCon編集部

不登校支援ポータルCoCon編集部。当事者家庭への取材と一次情報をもとに記事を作成しています。

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