
お子さんが学校に行けなくなった瞬間、共働き家庭を真っ先に襲う問いがあります。「日中、誰が、家にいる子を見る?」。多くのご家庭で、なぜか「お母さんが仕事を辞める」という答えが、まず候補に上がります。けれど、それは本当に唯一の選択肢でしょうか?収入の半分が消えるリスク、復職の困難さ、母親自身のキャリア・アイデンティティ。失うものは決して小さくありません。今回のコラムでは、“辞めない選択肢”を組み立てる4つの素材と、それらを組み合わせる現実的な術を整理します。
目次
なぜ”母が辞める”が真っ先に候補になるのか
不登校支援の現場で、よく耳にする保護者の声がこれです。
「とりあえず私が、仕事を辞めるしかないかなって…」 「夫は仕事を辞められない、私のほうが収入も少ないし」 「子どもをひとりにしておくのは可哀想で」
この発想の背景には、「不登校の子をひとりにできない」「家にいる子の見守りは母の仕事」という、現代社会に残る無自覚な前提があります。でも、立ち止まって考えてほしいのは、“見守り”の中身は、本当に「常に家に大人がいること」なのか?ということ。多くのケースで、答えはNoです。
“辞める前に”検討したい、4つの素材
「日中、誰が見る?」問題を解くためのパーツは、大きく次の4つに分けられます。一つで完結する必要はありません。複数を組み合わせることで、現実的な解が見えてきます。
① 会社の柔軟勤務制度(テレワーク・時差出勤・短時間勤務)
まず最優先で検討したいのが、“仕事を辞める”の前に”働き方を変える”選択肢。多くの企業で、テレワーク、時差出勤、フレックス、短時間勤務などの制度が整いつつあります。「子の看護」「家族の介護」と並ぶ正当な事由として、不登校対応も認める企業が増えています。一度、人事と1on1で相談してみる価値は確実にあります。
② 見守りカメラ・スマートホーム
家庭用見守りカメラ(月数百円〜)、スマートロック、ビデオ通話常時接続、Amazon Echoのようなスマートスピーカー――。“物理的に同じ家にいなくても、声と映像でつながる”仕組みは、この10年で劇的に進化しました。お子さんも「常に親に監視されている」のではなく、「困ったらすぐ繋がれる」という安心感を持てます。
③ フリースクール・適応指導教室・校内別室
お子さん本人にとっての”日中の居場所”を増やすことも、保護者にとっての”日中の安心”を増やします。フリースクール(民間)・教育支援センター(自治体)・校内フリースクール――いずれも、不登校のお子さんが日中過ごせる選択肢です。週1日でも通える場所ができると、保護者の出社可能日も増えます。
④ 祖父母・親族・地域コミュニティ
「祖父母発言問題」とは別の話で、祖父母が”見守りパートナー”として機能する場合もあります。週1〜2日、ランチに来てもらう/お子さんがその間だけ祖父母宅に行く、など。地域のファミリーサポート、子どもの居場所事業など、自治体の公的サポートもあります。
“組み合わせ例”――現実的なパターン3つ
単体で全てを解決する必要はありません。実際のご家庭で機能している組み合わせを、3パターンご紹介します。
パターンA|テレワーク中心+見守りカメラ
最も導入ハードルが低く、即効性が高い。
母(または父)が週4日テレワーク+週1日出社に切り替え。出社日は見守りカメラ+スマートロック+お昼の電話で対応。子どもにとっても「親が家のどこかにいる」安心感が確保されます。
パターンB|フリースクール+夫婦の出社日ローテーション
お子さんがフリースクールや支援センターに週何日か通える状態のご家庭向け。
お子さんがフリースクール(週2〜3日)に通えるようになったタイミングで、夫婦の出社日を曜日でローテーション。「火・木は妻が出社、月・水・金は夫が出社、その他は両方在宅」のように曜日を割り振ります。どちらか一方に偏らせないのがコツ。
パターンC|祖父母協力+短時間勤務+カメラ
テレワークが難しい職種(医療・教員・現場仕事)向け。
勤務形態を短時間勤務(時短)に切り替え+祖父母にランチタイムだけ来てもらう+見守りカメラ。「辞める」ではなく「ペースを落とす」を選ぶことで、収入は減るがキャリアの連続性は守れます。復職タイミングも柔軟に調整できます。
💡 押さえておきたい原則
“見守り”の中身は、「常に物理的に大人がいる」ことではなく、「困ったときにすぐ繋がれる」こと。この発想の転換ができると、選択肢は一気に広がります。
会社にどう伝える?――上司・人事との話し方
柔軟勤務制度を引き出すには、上司・人事との対話が避けて通れません。次の3つを押さえると、話が前に進みやすくなります。
“事情”より”提案”の形で伝える
「子どもが不登校で困っています」だけでは、相手も判断が難しい。「週X日テレワークにすることで、これまでと同じ成果を出せます」と、自分から働き方の提案を一緒に出すと、議論が前向きに動きます。
既存の社内制度を事前に調べておく
「子の看護休暇」「介護休業」「在宅勤務規程」など、すでにある制度のうち、不登校対応に流用できそうなものを事前にリストアップ。「規則のここに該当する」と提示できると、相手も決裁が出しやすくなります。
期間を区切る/お試し期間を置く
「ずっと」ではなく、「まず3か月、週X日テレワーク」のように区切ると、会社側も承認しやすい。実績を作ってから期間延長を相談する、という段階を踏むのがおすすめです。
避けたい3つのパターン
「いますぐ全部解決しなきゃ」という焦りの中で、ご家庭がやりがちなNGパターンがあります。
❌ つい選びがち
不登校が始まった翌週に、母が会社を辞める決断をしてしまう
⭕ おすすめ
まず3か月、柔軟勤務でやってみる。退職判断は最後の最後に。
❌ つい選びがち
夫婦どちらか一方だけが、見守りを全部引き受ける
⭕ おすすめ
曜日・時間帯で夫婦+祖父母+外部の役割を分担する。
❌ つい選びがち
「常に物理的に同じ家にいなきゃ」と思い込む
⭕ おすすめ
見守りカメラ・通話・LINEで“いつでも繋がれる状態”を作る。
⚠️ “辞める”判断は、いちばん最後にしてください
退職は元に戻せない選択です。母親(または父親)のキャリア・収入・社会的接点が、結果的にお子さんを支える土台にもなります。「とりあえず辞める」は、後悔につながるケースが少なくありません。可能な限り、休職・短時間・テレワークなど”戻れる選択”を優先しましょう。
まとめ:「辞めない選択肢」は必ずある
「日中、誰が見る?」問題に、唯一の正解はありません。けれど、「お母さんが辞めるしかない」と即断するのは、もったいない。柔軟勤務・見守りカメラ・フリースクール・祖父母協力――これらを“組み合わせ”として設計することで、ご家族が望む形に近い解が見つかることが多いです。CoConとして伝えたいのは、母親(または父親)のキャリアを守ることも、お子さんへの大切な支援の一つだということ。あなたが続けてきた仕事の時間が、いつかきっと、お子さんが将来選択肢を持つときの背中になります。
