⚠️ 被災地にいらっしゃる方へ
まずはご自身とご家族の身の安全、そして自治体・気象庁が発表する公的な避難情報を最優先にご対応ください。本記事は、少し落ち着いてから、あるいは全国のご家庭が”備える”ためのガイドとしてお読みいただくことを想定しています。
THE INSIGHT / 災害と不登校家庭
2026年7月28日、熊本県熊本地方で最大震度7の地震が発生しました。被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。 災害が起きたとき、多くの避難所は学校の体育館です。その事実は、学校に行けない・行かない子どもとそのご家族に、「行けない場所に、避難しなければならない」という二重の困難をもたらします。 CoConのもとには、日々「避難所に子どもを連れて行けるだろうか」「不登校のことを知られたくない」という保護者の声が届いています。この記事では、災害アドバイザーと児童支援の視点を重ねながら、不登校家庭に固有の災害時の困難と、今日から動ける備え・対応を整理しました。
この記事で分かること
① 不登校家庭に固有の、災害時の”見えにくい”4つの課題 ② 過去の震災(東日本/熊本/能登)で実際に起きたこと ③ 保護者が”今日から”できる備えと、被災後のフェーズ別対応
1. 不登校家庭に固有の、災害時の”見えにくい”4つの課題
まずは、当事者のご家庭が抱えやすい、あまり語られてこなかった不安を4つ言語化します。「これが不安だった」と思い当たる方は、あなただけではありません。
① 避難所が「学校」であるという心理的ハードル
指定避難所の多くは、小中学校の体育館や教室です。日常でいちばん行きにくい場所が、災害時にはいちばん行かなければいけない場所になる──。「クラスメイトや担任と、突然顔を合わせるかもしれない」「『なんで学校に来られるの?』と聞かれたら」──不登校のお子さんとご家族にとって、この心理的ハードルは、大人が想像する以上に高くなります。
② 集団生活・感覚面のストレス
不登校の背景に感覚過敏、HSC、発達特性があるお子さんは少なくありません。音・光・匂い・プライバシーのない集団生活は、平時の教室以上に大きな負荷になります。専門家が指摘する困りごととして、「言葉で困りごとを伝えられない」「決まった食事しか食べられない」「集団のトイレが使えない」などが挙げられます(参考:LITALICO発達ナビ 専門家監修記事)。
③ 「避難所に行けない」家庭ほど孤立する構造
在宅避難や車中泊を選ぶと、物資・情報・支援の拠点である避難所から漏れやすくなります。2016年の熊本地震では、車中泊・軒先避難が多発した結果、災害関連死は直接死を大きく上回り、犠牲者の約8割が関連死だったとの記録があります(参考:ピースウィンズ・ジャパン)。「避難所に行かない選択」が、その先の命に関わる支援の切り離しにつながる構造は、事前に知っておくべき教訓です。
④ 保護者自身の負い目と「周囲の目」
「子どもが騒ぐと迷惑になるのでは」「不登校を知られたくない」──こうした保護者側の心理も、避難所回避の大きな要因になります。2016年熊本地震の育児中女性へのアンケート調査(内閣府男女共同参画局)では、子どもの泣き声への気兼ねから車中泊を選んだ母親の声が数多く報告されています。これは、不登校の有無にかかわらず、育児中の家庭が共通して抱える課題でもあります。
2. 過去の震災で実際に起きたこと ― 3つの事例から学ぶ
事例① 東日本大震災(2011)― 「災害で不登校が増える」と単純には言えない
「震災の影響で不登校が増える」と語られることがあります。しかし、宮城県のデータを分析したNPO地星社は、そう単純には言えないと指摘しています。沿岸部の一部自治体では上昇が見られた一方、被害の大きかった南三陸町では不登校率は低いままだった──と(NPO法人地星社)。
災害の影響は、子ども一人ひとりで大きく異なります。環境の変化が転機になり動き出す子もいれば、数年後に影響が現れる子もいる。だからこそ、”長期的に、その子のペースで”見守れる体制を家庭・地域で持っておくことが大事になります。
💡 保護者が知っておきたい”正常な反応”
文部科学省の資料(「子どもの心のケアのために」)は、災害後の赤ちゃん返り・不眠・イライラ・過度のべたつきなどを、“異常な状況への正常な反応”と位置付けています。子どもの反応を「困ったこと」ではなく「回復のプロセス」として受け止める視点が、初動でとても大切です。
事例② 熊本地震(2016)― 「福祉子ども避難所」という仕組み
2016年の熊本地震では、集団避難所に馴染めず車中泊や在宅避難を選ぶ家庭が多発し、関連死という深刻な結果を招きました。その教訓を受けて、熊本市は「福祉子ども避難所」──配慮が必要な子どものための避難所──の仕組みを整備しました(熊本市公式/内閣府防災 資料)。今回の地震でも、まさに活きる制度です。
⚠️ 重要な実務ポイント:福祉避難所は”直接行けない”
福祉避難所(福祉子ども避難所を含む)は、原則として直接向かうことができません。まず指定避難所(学校等)の受付で保健師等のスクリーニングを受け、必要と判断されてマッチングされる流れになっています。 「学校の避難所は行けないから、福祉避難所に直接」ではなく、「指定避難所の受付で、配慮が必要なことをきちんと伝える」が第一歩です。伝えないと始まらないことを、覚えておいてください。
同様の仕組みは、他自治体でも広がりつつあります。日本小児神経学会や国立障害者リハビリテーションセンターのガイドも、平時の一読をおすすめします。
事例③ 能登半島地震(2024)― 避難所の中に”子どもの居場所”をつくる
2024年の能登半島地震では、認定NPO法人カタリバが避難所内に「みんなのこども部屋」「みんなの勉強部屋」という子どもの安心スペースを設置。のべ4,000人の子どもたちに利用されました(カタリバ 活動報告)。避難所という慣れない環境の中でも、子どもだけの落ち着けるコーナーがあることの意味は、数字が物語っています。
一方で、福祉避難所が発災後しばらく機能しなかった地域もあったという課題も指摘されています。「令和6年能登半島地震 子供の学び支援ポータルサイト」のように、学校外の学び・支援と繋がる仕組みが災害時にも立ち上がってきていることも、押さえておくと安心です。
3. 保護者ができること ― フェーズ別ガイド
災害の”時間の流れ”に沿って、保護者ができることを4つのフェーズに分けて整理します。すべてを完璧にやろうとしなくて構いません。「今、自分がいるフェーズ」の一つ二つが実行できれば十分です。
フェーズ① 発災直後(〜72時間)
命と安全が最優先。「避難所に行くか行かないか」で自分を責めない
安全が確保できる状況なら、在宅避難・親戚宅・車中泊も正当な選択肢です。無理に集団避難所に入れて子どもが不調になるより、その子が落ち着ける場所で身を守ることが優先です。
車中泊を選ぶなら、エコノミークラス症候群と熱中症の対策を必ず
こまめな水分補給、時間を決めての足のマッサージや車外での歩行、直射日光の遮り方。命に関わる二次被害を防ぐ知識を、事前に家族で共有しておいてください。
子どもへの声かけ:情報を遮断しすぎず、見せすぎず
被害映像の連続視聴は、大人でも心を消耗させます。子どもは特に影響を受けやすい。テレビ・SNSと距離を取りつつ、「大丈夫、一緒にいるよ」という声かけで、安心の土台を先に作ってあげてください。
避難所に行くなら「配慮が必要な子がいる」と受付で伝える
パーテーション設置、別室の割り当て、福祉避難所への橋渡し──これらは”伝えないと始まらない”支援です。「不登校」「発達特性」「感覚過敏」など、伝えられる範囲で構いません。
フェーズ② 避難生活期(数日〜数週間)
在宅避難でも、必ず”避難者登録”を
自治体の窓口や指定避難所で、「在宅避難していること」を登録してください。これが物資・情報・支援から漏れないための最重要アクションです。「避難所に行っていない=支援の対象外」ではありません。
福祉避難所・福祉子ども避難所につながる
前述の通り、指定避難所の受付経由でスクリーニングを受け、必要と判断されると案内されます。迷ったら、まず伝える。それが窓口を開く鍵です。
子どものサインの見方:叱らない・話させない・生活リズムを整える
赤ちゃん返り、夜泣き、攻撃性、無気力、べたつき──いずれも正常な反応です。無理に感情を吐き出させず、可能な範囲で就寝・食事・活動のリズムを整えることが、いちばんの心のケアになります。
避難所内の子どもの居場所・NPOの支援を”使っていい”
カタリバのような「こども部屋」「勉強部屋」が立ち上がっている場合は、遠慮せず利用を。使うことが、次の家族を助けることにも繋がります。
保護者自身のケアを”優先”していい
親の不安は、そのまま子に伝わります。頼れる人・制度・団体は、全部頼っていい。自分を後回しにしないことが、結局は子どもを守ることになります。
フェーズ③ 復旧期・学校再開のとき(数週間〜)
⚠️ 学校再開=登校再開のチャンス、と周囲が期待しがちな時期です
「災害を機に、また学校に戻れるかも」──善意の期待が、逆にお子さんを追い詰めることがあります。再開圧力を、家庭の外から持ち込ませないように意識してください。
一方で、環境が変わったことで動き出せる子もいます。「戻る子も、戻らない子も、どちらも本人のペース」──この視点だけは、周囲との会話の芯に置いておきたいところです。
被災でフリースクールや教育支援センターが使えなくなった場合の代替も、事前に把握しておくと安心です。能登地震の際に立ち上がった「子供の学び支援ポータルサイト」のように、災害時にオンライン・地域の学び資源が急速に整備される事例が増えています。
また、災害時に使える制度(罹災証明・就学援助・心のケア窓口)は、不登校のご家庭も対象です。スクールカウンセラーも、在籍校を経由すれば、通っていないお子さんの保護者相談として利用可能です。「使えないだろう」と諦めず、まずは問い合わせを。
フェーズ④ 平時の備え(全国の読者向け)
最後に、被災地の外にいる全国のご家庭のための、”平時の備え”チェックリストです。
📋 不登校家庭版・防災チェックリスト
☐ 家族で「避難所に行けない場合のプランB」を話し合っておく ☐ 在宅避難用の備蓄は、可能な範囲で1週間分(水・食料・生活用品) ☐ 安心グッズを持ち出し袋に:イヤーマフ、推しグッズ、ゲーム機と充電、慣れた食べ物、常備薬 ☐ ヘルプカードの用意:服薬・特性・配慮事項を1枚にまとめて携帯 ☐ 自治体の指定避難所と福祉避難所の場所を、平時に確認 ☐ 福祉避難所の利用手順を自治体HPで事前確認(”直接行けない”仕組みの理解) ☐ 家族の集合場所と連絡手段を決めておく
4. 「不登校だから支援が受けられない」は誤解です
災害時の支援制度の多くは「在籍」ベースで組み立てられています。つまり、学校に通っていなくても、在籍している限り、支援の対象です。
✅ 不登校家庭も使える主な支援窓口
・就学援助制度(学用品費・給食費等の補助) ・スクールカウンセラー(保護者単独相談も可能) ・教育委員会の相談窓口(各自治体) ・教育支援センター(適応指導教室) ・災害時の子どもの心のケア相談(都道府県の子ども家庭支援センター等) ・フリースクール・親の会ネットワーク(オンラインでもつながれる)
「うちは学校に行っていないから対象外だろう」と諦めず、まず問い合わせて確認してください。制度は、知って使う人にしか届きません。 今回の熊本地震の現地窓口の情報は、確認でき次第、CoConでも発信・更新していきます。
5. おわりに ― 不登校対応の力は、災害時の”強み”にもなる
災害時に子どもを守る最大の備えは、その子のペースと安心を守り続けることです。それは、不登校のご家庭が普段からやっていることの延長線上にあります。
周囲のペースに合わせず、その子の呼吸のリズムで一日を組み立てる。「今日ここまでできた」を否定せず受け止める。安心の土台を積み上げていく──。これらは、不登校対応で培われた”技術”であり、災害時にはむしろ家族の強みになります。
「学校に行けない」を弱点ではなく、”事前に対策できる特性”として受け止めてきたご家庭の力を、CoConは信じています。被災された皆さまが、一日も早く落ち着いた日常を取り戻せますよう、心よりお祈りしています。
📞 相談窓口・情報源
緊急時の相談窓口
・災害時こころの相談ダイヤル:自治体・保健所の窓口をご確認ください ・24時間子供SOSダイヤル:0120-0-78310 ・よりそいホットライン:0120-279-338(24時間)
公的資料・ガイド
・文科省「子どもの心のケアのために」 ・熊本市「災害時における福祉避難所」 ・日本小児神経学会「子どものための福祉避難所」 ・国立障害者リハビリテーションセンター 災害時支援
本記事の主要ソース
- 2026年熊本地震の状況(ウェザーニュース)
- NPO法人地星社「震災の影響で不登校が増えた」は本当か?
- 文部科学省「子どもの心のケアのために」
- 文部科学省 非常災害時の子どもの心のケアに関する調査
- 内閣府男女共同参画局「熊本地震を経験した育児中の女性へのアンケート調査」
- ピースウィンズ「犠牲者の約8割が災害関連死」
- 熊本市「災害時における福祉避難所」
- 熊本市 福祉子ども避難所資料(内閣府防災)
- 日本小児神経学会「子どものための福祉避難所」
- LITALICO発達ナビ(専門家監修)
- 国立障害者リハビリテーションセンター 災害時支援
- カタリバ 能登半島地震 活動報告
- 令和6年能登半島地震 子供の学び支援ポータルサイト