SPECIAL REPORT / CoCoN調査

校内フリースクール(校内教育支援センター・校内別室・校内ハートフル等)は、教室には入れないけれど学校までは行ける子どもにとって、もっとも近くにある”安全地帯”です。けれど、全国の市町村のうち「市内の全ての学校に設置されている」と回答した自治体は、わずか228(2023年2月時点)。残り約9割の自治体では、子どもの校区しだいで支援にあたれるかどうかが偶然で決まる、というのが日本の現状です。そんな中、市立の小中学校への”全校カバー”に踏み切った大規模自治体が、ここ2年で立て続けに現れました。つくば市・横浜市・さいたま市──この3つの決断を、保護者目線で並べてみます。

3市を並べてみる

項目
つくば市
横浜市
さいたま市
呼 称
校内フリースクール
校内ハートフル
校内教育支援センター 「Solaるーむ」
開始時期
2024年4月〜
2024年9月〜 (計画前倒し)
2024年度〜
対象学校
市立 全50校 (小・中・義務教育学校)
市立中学校 全146校 (中学のみ)
市立 全小中学校 +中等教育学校(前期)
配置形態
支援員+担当教員の併用
支援員 常駐
(要確認)
主な機能
学習・リラックススペース・対話
個別指導・オンライン学習・進路相談
居場所・自己肯定感・学習機会
情報公開
市教委サイトに写真付き紹介
教委noteで個別校紹介あり
市教委サイトに紹介
きっかけ
市の不登校支援の方針として段階拡大
重大事態調査の指摘を受け前倒し
市の不登校支援の包括的整備の一環

茨城県つくば市:全50校を、研究学園都市らしく

茨城県つくば市は、2024年4月から市立の小学校・中学校・義務教育学校 全50校に「校内フリースクール」を設置。茨城県内で初めて、自治体内の全校カバーを達成しました。

特徴は、各校の校内フリースクールの様子を、市教育委員会のサイトで写真付きで公開していること。学習スペース、リラックススペース、それぞれの校風が反映された空間設計が見て取れます。各校の運営は、担当の教員と支援員が、児童生徒の生活リズム・学習ペースに合わせて、過ごし方を一緒に決めていく形。利用の窓口は「在籍する学校に相談」と統一されていて、保護者にとって”どこに相談すればいいか分からない”という迷子を生まない設計になっています。

つくば市の意義

人口約26万人の中核市が、研究学園都市らしい先行投資として全校カバーを達成。”市内のどの学校に通っていても、必ず校内フリースクールがある”という保護者にとっての安心の水準を、現実に打ち立てました。

神奈川県横浜市:重大事態の調査結果を受けて、計画前倒しで全146校

横浜市は、2024年9月から市立中学校 全146校に「校内ハートフル」を設置。3市の中で唯一、設置に踏み切った”きっかけ”が極めて重い背景を持ちます。

2020年3月、横浜市立中学2年の女子生徒が、いじめを理由に命を絶ちました。その後の重大事態調査の報告書が、市の不登校支援体制への根本的な見直しを求める内容となり、市は当初の校内ハートフル拡大計画を大きく前倒し。3年余りで全市立中学校への展開を完了させました。「悲しい出来事を、二度と起こさないために」──政策の起点に、たしかに失われた一人の生徒の存在があります。

運営は、各校に支援員が常駐。生徒本人や保護者の思いを聞いた上で、中学卒業期の長期目標などを定め、個別指導・オンライン学習・進路相談など、生徒一人ひとりに応じた学びを提供します。全校実施した場合の利用見込みは約2,500人(市立中の全生徒の約3%)と試算されており、ここに常時アクセスできる体制を作ったインパクトは、政令市規模ではかつてないものです。

横浜市の意義

対象は中学校のみ(小学校はまだ)。とはいえ、不登校が中学進学を機に急増することを踏まえると、政策判断として大きな意味があります。一方で、小学校段階での予防的支援への展開は、今後の課題として残されています。

埼玉県さいたま市:「Solaるーむ」という名前に込めたもの

さいたま市は、2024年度から市立の全ての小学校・中学校・中等教育学校(前期課程)に校内教育支援センター「Solaるーむ」を導入。3市の中で、対象範囲(小〜中等教育まで)がもっとも広いのが特徴です。

名称の「Sola」は、フランス語の Soleil(太陽)と日本語の「空」を掛け合わせた造語。市教委は「全ての児童生徒が、あたたかい支援のもとで、自分の個性を大きく伸ばしてほしい」という願いを、この名前に込めたと説明しています。部屋の名前を、行政っぽい無味乾燥なものではなく、子どもが入りたくなる言葉にする──これだけで、子どもにとってのハードルは確実に下がります。実は、各校の名称設計まで含めて、ベンチマークすべきポイントが多い事例です。

さいたま市の意義

人口約134万人の政令市が、小・中・中等教育を含めた“切れ目のない全校カバー”を打ち出しました。横浜の「中学のみ」、つくばの「小中・義務教育」を、もう一段広げた到達点と言えます。

3市から見えてくる、4つの示唆

1

「全校設置」は、人口規模に依存しない

人口26万のつくば市から134万のさいたま市まで、自治体規模を問わず到達可能だと示されました。規模を理由に「うちの自治体は無理」とする言い訳は通用しなくなった、と言えます。

2

“きっかけ”は、必ずしも前向きなものとは限らない

横浜市の前倒しは、いじめによる重大事態の調査結果がきっかけでした。「悲しい出来事の後追いではなく、未然に動ける自治体になる」──これは他の自治体への重い問いかけでもあります。

3

「中学のみ」か「小中とも」かは、政策思想の分岐点

横浜は中学のみ、つくば・さいたまは小中とも。不登校が急増する中学を優先する判断と、小学校段階で予防に手を伸ばす判断、それぞれに合理性があります。両者のどちらに振るかは、自治体の不登校対策の哲学が問われるポイントです。

4

名前と情報公開が、利用ハードルを左右する

「校内ハートフル」「Solaるーむ」「校内フリースクール」──子どもが入りたくなる名前と、保護者がアクセスしやすい情報公開を併設できているかは、利用率に直結します。3市はこの両面で、他自治体に比べ一歩リードしています。

まだ誰も達成していない「次のステージ」

校内フリースクール政策のステージは、ざっくり次のように整理できます。

導入(モデル校数校) ↓ 拡大(中規模・複数校) ↓ 全校カバー:中学のみ(横浜) ↓ 全校カバー:小中とも(つくば・さいたま) ↓ 全校カバー+専任支援員+他校受入+情報の完全公開 ← まだ達成自治体なし

3市のいずれも、量的な「全校カバー」までは到達しました。けれど、「専任の支援員が常駐しているか」「校区外からも受け入れるか」「学校ごとの開設曜日・支援内容まで公開されているか」──このあたりの”質”の情報まで、保護者が一発で分かる形で開示できている自治体は、まだ日本にひとつもありません。次のステージは、ここです。

「うちの校区にもあるんだ」を、当たり前にする

校内フリースクールがある、ない――これだけで、不登校に向き合う家庭の選択肢は大きく変わります。つくば・横浜・さいたまの3市は、その選択肢を偶然ではなく、必ず手に届く場所に置き直してくれました。 残りの自治体に住む保護者にとって、この3市の存在は希望でもあり、同時に「なぜうちの市はまだなのか」という静かな問いの種でもあります。CoConでは、この3市のように”全校カバー”を達成・準備中の自治体を継続的に追いかけ、保護者がお住まいの地域の選択肢を一覧できる地図を作っていきます。


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