SPECIAL REPORT / NPO法人Tobira 取材

【取材レポート:ナイトウォーク35km】

3月28日(土)、千葉市・土気駅から海浜幕張公園までの35kmを、30名以上の中高生たちが一晩かけて歩き抜くイベントが開催されました。主催は、中学の社会科教員でもある菊池慧さんが代表を務める「NPO法人ToBiRa」。

スマートフォンを封印し、地図とコンパスだけを頼りに進む過酷な旅。そこには、不登校を経験した子どもたちや、彼らを支える大人たちの、静かですが力強い「挑戦」の姿がありました。

スマホを切り、五感で「自分」を取り戻す。
——35kmの闇を歩き抜いた子どもたちが手にした「苦労」という名の自信

出発の儀式は、全員でスマートフォンの電源を落とすことから始まりました。検索も、SNSも、親への連絡もできない。デジタルという「便利さ」から離れたとき、子どもたちの冒険が幕を開けました。

■ 闇に響く音、研ぎ澄まされる五感

今回のテーマの一つは、子どもたちに「苦労をさせる」こと。1グループ5〜6名、計6グループに手渡されたのは、4枚の紙の地図とコンパスだけ。
ルートは真夜中の川沿いの土手や、街灯一つない森の中。暗闇の中から聞こえてくる不気味な鳥の鳴き声、茂みで何かが動く「ガサガサ」という音。スマホの画面に視線を奪われていた日常では決して気づかない自然の気配に、子どもたちは驚き、時に小さな恐怖を感じながら歩を進めます。

道に迷い、同じ場所をぐるぐると回り、スタート地点に戻ってしまうグループもありました。しかし、その「迷い」を仲間と共有し、自分たちの知恵で解決していくプロセスを通して、彼らの中に眠っていた「生きる力」を呼び覚ましていきます。

■ インタビュー:金子悠也さん(サポートスタッフ / 早稲田大学学生)

代表・菊池さんの教え子であり、自身も不登校を経験した金子さん。デジタルネイティブ世代の彼が感じた、このイベントの価値とは。

——イベントに参加してみてどうでしたか?
「自分がサポートに付いたグループはサッカー部の中学生たちでした。大学生である自分もそうですが、特にデジタルネイティブの中学生たちのコミュニケーションにおいて、スマホはかかせないものだと思うんです。そこをあえて使わないということにして、目の前の仲間と地図だけを頼りに、苦しいことをやり遂げるというのは、子供たちにとってかけがえのない体験になったんじゃないかなと思います。」

——子どもたちの様子はどうでしたか?
「スマホの地図アプリに慣れた彼らが、白黒で縮尺もバラバラの地図を見ながら『この道違うな』とか『暗くて怖いな』と言いながらもお互いに協力し合う姿がありました。辛くて途中でやめたくなるタイミングが全員あったと思うんですが、冗談を言い合ったりして楽しませ合いながら、なんとか挑戦している姿がすごく印象的でした。」

■ 「自分の足」で歩き切るという、自尊心の回復

夜が更けるにつれ、足の痛みや疲労で身体は鉛のように重くなっていきます。そんな中、前回参加時にスタッフに両脇を抱えられるようにしてゴールしたという一人の少年がいました。彼の今回の目標はシンプルでした。「最後まで、自分の足で歩き切ること」。

見事に完歩し、海浜幕張のビーチにたどり着いた時の彼の達成感に満ちた表情。サポートメンバーが準備してくれた温かい”けんちん汁”が何よりのご褒美。冷えた体の隅々にまで染み込む美味しさで「うまい!」「おかわりください!」と大人気でした。その後、疲れも見せず砂浜でビーチフラッグに興じる子どもたちの姿は、自力で困難を突破した先にしかない、生のエネルギーの爆発を象徴していました。

■ インタビュー:菊池慧さん(NPO法人ToBiRa代表)

2回目となる今回の開催を終えて、代表の菊池さんに伺いました。

——前回と比べて手応えはどうですか?
「大きな手応えを感じています。リピートで参加してくれた子から『また参加させてくれて本当にありがとうございました、達成感があります。何か変われた気がします』と感想をいただきました。同じルートをたどっても、心に強く残るものがあるんだなと。今回、不登校経験のある子や教え子たちがサポーターとして『経験を活かしたい』『何かやってみたい』という気持ちで参加してくれたことも大きかったですね。」

——今後、どういった活動をしていきたいですか?
「やっぱりみんなの共通理解で、楽よりは『苦労』が大事だよね、というところがあります。子どもたちの自由度と責任を高めて、実際に挑戦させていくことが一番その苦労に繋がる。そういう見守りとサポートができる団体でありたいと思っています。」

■ 挫折さえもかけがえのない経験、新任教師の独白

大人が先回りして困難を取り除くことは、時として子どもの成長を奪うことにもなります。今回のナイトウォークで、ある中学教員1年目の先生が語ってくれた言葉が忘れられません。

「私は大学生の頃に参加したインターンプログラムで代表の菊池と出会いました。『こんな先生がいるんだ!』と衝撃を受けました。これまでは苦労らしい苦労をせずに生きてきましたが、教員になってはじめて、数多くの挫折や絶望的な経験をしています。でも、その経験こそが自分にとってはかけがえのないもので、苦労もなんだか楽しいんですよね。教員になって本当に良かったと日々やりがいを感じています。」

教員1年目の彼が向き合っている「葛藤」は、闇の中、足の痛みに耐えながら自力で完歩した少年たちの「苦労」と、地続きで繋がっています。

不登校という時間は、決して停滞ではありません。自分の人生をどうデザインするかを主体的に考え、自らの足で一歩を踏み出すための「究極の主権者教育」でもあります。

夜の35kmを歩き切った彼らのように、自分の足で一歩を踏み出す瞬間を信じて待つ。その大人の「信頼」こそが、子どもの成長ををアンロック(解き放つ)する鍵になるということを強く感じました。

 

 

公式LINEで「Unlock」のヒントを配信中

不登校を強さに変えるための体験談や、
新しい学びの場の情報を定期的にお届けします。

 

Unschool. Unlock.