学校に行けない理由は一つじゃない|子どもに合ったサポートの形を見つける
1. はじめに
「また今日も、学校行かないって…」
朝、制服を着るのを嫌がって、部屋から出てこない我が子を見ていると、どうしたらいいのかわからなくなることはありませんか? 何度も話を聞こうとしたり、なだめたり、怒ってしまったり…。
「甘えてるだけじゃないか」「もっと頑張ってほしい」そんなふうに思ってしまう自分に自己嫌悪を感じたり、「他の子はちゃんと行ってるのに」と比較してしまったりすることもあると思います。
そんなふうに感じている保護者の方は、あなただけではありません。
そして、不登校の背景には“ただのわがまま”では済ませられない、もっと深い理由が隠れていることもあるのです。
こちらでは、不登校の多様な背景要因の中でも、特に見過ごされる可能性の高い発達特性について理解を深めていきます。
また、そのサポートの選択肢として「療育」という方法をご紹介します。
子どもたちは一人ひとり異なる個性と特性を持っています。その子に合ったサポートの形を見つけることが、子どもと家族の未来を切り拓く第一歩となるでしょう。
2. 不登校の背景にある“見えにくい理由”
不登校の子どもたちの数は、年々増えてきています。文部科学省の調査では、小中学生の不登校は34万人を超え、今や決して珍しいことではなくなりました。
そして不登校の理由の多くは、「怠けたい」や「さぼりたい」ではなく、「行きたいけど行けない」という状態であることがわかってきています。
原因はひとつではなく、友人関係、授業のスピード、先生との相性、自己肯定感の低さ、感覚過敏など、さまざまな要素が絡み合っています。
だからこそ、子ども自身が自分の不調を言葉にできなかったり、大人から見ると「ただ嫌がっている」ように見えてしまうこともあるのです。
でも、その「行きたくない」の言葉の奥には、ちゃんと理由があるかもしれない。
そう思って耳を傾けてみることからはじめてみませんか。
3.“気づかれにくい発達特性”が原因のことも
実は、不登校の子どもたちの中には、「発達障害」や「学習障害」といった、外からは見えにくい困難を抱えているケースも見られます。
たとえば、次のような様子が見られることはないでしょうか。
- 集団の中にいると、まわりの声や音が気になって集中できない
- 長く座っていられず、立ち上がったり、歩き回ったりする
- 黒板の字が見えにくい、書き写すのに時間がかかる
- 何かに取り組んでもすぐに飽きてしまう
- 注意がそれやすく、授業についていけない
- 空気を読むのが苦手で、友人とのやりとりがうまくいかない
こうした特徴は、周りからは「不真面目」「やる気がない」と見られてしまうことも多く、子どもは「がんばってるのに怒られる」苦しさを感じやすいのです。
それによって、「学校という環境が合わない」ことが原因となり、結果として不登校になるという場合もあります。
発達障害の特性による「学校生活での苦手」や、周囲の無理解、失敗体験の積み重ねが不登校の大きな要因となるケースが多いです。
決して、甘えているのでも、保護者の育て方が悪いのでもなく、「その子にとって、学校がものすごくがんばらないと過ごせない場所」になっているだけなのかもしれません。
4. どう見極める? 保護者ができる“最初の一歩”
「じゃあ、どうしたらいいの?」と戸惑う方も多いと思います。
まずは、子どもの日々の様子を少しだけ観察してみてください。
- 落ち着きがない、集中が続かない
- 忘れ物が多い
- こだわりが強い
- 話が伝わらない、会話が一方的
- 服のタグや音、においに敏感
- 友達と上手に遊べない、一人遊びが多い
当てはまることがあれば、発達相談のできる窓口に話をしてみるのも一つの方法です。
小児科や保健センター、スクールカウンセラー、発達障害専門の医療機関など、地域によって相談できる場所があります。
「診断を受ける=レッテルを貼る」と感じてしまう方もいるかもしれませんが、それは“その子の特性を知る”ためのヒントになります。
診断がゴールではなく、理解の入り口になるのです。
5. 子どもの発達特性を相談できる場所・機関
もし、子どもの発達のことで気になることがある場合は、一人で悩まず、信頼できる人や機関に話をしてみましょう。
それが保護者自身の心を守る方法にもなるからです。
ですが、情報が沢山ありすぎて「うちの子に合うのはどれなんだろう?」「間違った対応をしてしまわないか不安…」と、ますます迷ってしまうこともありますよね。
ここでは、「まず、どこに相談すればいいの?」という方のために、いくつかの相談先をご紹介します。
学校の担任、スクールカウンセラー
まずは身近な学校の担任やスクールカウンセラーに連絡し、現状や悩みを伝えてみましょう。学校での様子や支援策について一緒に考えてもらえるはずです。
スクールカウンセラーは学校にいる心のケアの専門家で、子どもだけでなく、保護者の相談にも応じてくれます。
「担任の先生にはちょっと言いづらい…」という話も、カウンセラーになら伝えやすいこともあるでしょう。
かかりつけの小児科、医療機関(児童精神科・発達外来など)
もし、「発達のことかもしれない」「もしかして心の病気…?」と感じることがあれば、かかりつけの小児科医に相談してみましょう。
身体的な問題がないか確認するとともに、必要な場合は児童精神科や発達外来など、専門的な医療機関を紹介してもらえることが多いです。
各自治体の保健センター
地域の保健センターでも発達の相談ができます。
保健師が発達の悩みを聞き取り、必要に応じて検査や療育の案内をしてくれます。
教育相談センター
子どもの教育や発達に関する幅広い悩みや困りごとについて、専門的な立場から相談・助言・支援を行う公的な相談機関です。
学校生活や不登校、発達、家庭での悩みなど、さまざまな内容を気軽に相談できます。
発達障害者支援センター
18歳までの子どもを対象に、発達に気がかりのある子どもについて相談・サポートを行う機関です。
療育や個別支援、集団生活への適応訓練、保護者への相談・助言や子育て支援などを行います。
児童相談所
18歳未満の子どもに関する相談を幅広く受け付けており、発達障害の疑いについても相談できます。
最初は、「うちの子、ちょっと気になることがあって…」と相談するだけでも大丈夫です。
一人で悩み続けるより、小さな一歩から始めてみることで道が開けることもあります。
6. 「療育」という選択肢―子どもの可能性をひらく支援
あまり聞き慣れないかもしれませんが、「療育(りょういく)」という支援方法があります。
療育とは、その子の特性に合わせて、社会性・コミュニケーション・学習の基礎などをサポートするプログラムです。
保育や学習塾とは違って、「できないことを無理にやらせる、直す」のではなく、「その子の特性を理解し、適したやり方を見つける」ための支援といえるでしょう。
たとえば、このような事例があります。
- 宿題を細かく分けて、1つずつクリアする体験を積むことで、徐々に集中して取り組む力ややり遂げる力が身についた
- 漢字が苦手だったが、個別療育で「できたこと」をしっかり褒められる経験を重ねるうちに、自分から漢字学習に取り組むようになった
療育を通じて、子ども自身が「自分らしくいられる場所」を見つけていく姿を見ると、保護者としても気持ちが軽くなるでしょう。
また、療育は子どもの発達・自立支援と同時に、家族への支援も行います。
子どもを育てているのは家族です。いちばん身近な家族が子どもの特性を理解し、よい家族関係を築き、成長を前向きに捉えられるよう相談・助言をします。
7. 家庭でできる「小さな支え」の積み重ね
家で過ごす時間が増えると、「これでいいのかな」と不安になることもありますよね。
でも、家庭だからこそできることもあります。
- 家族のコミュニケーションを増やす
- 子どもが安心して自分の思いを話せる雰囲気を作る
- 小さな成功体験(料理の手伝い、ゲームのクリアなど)を一緒に喜ぶ
- 「あなたはあなたのままでいいんだよ」と、存在を肯定する言葉をかける
学校に戻ることがゴールではなく、まず「安心できること」「笑顔になれること」を重ねていくこと。それが、子どもにとって大きな一歩になります。
また、オンライン授業やフリースクール、家庭学習のサポートサービスなど、今は学校以外の選択肢も少しずつ広がっています。
焦らなくても大丈夫です。「その子に合う環境」を見つける旅を、ゆっくり始めていきましょう。
8.保護者自身もサポートを受けよう
不登校の子どもを持つ保護者として、さまざまな重圧を感じている方も少なくないでしょう。
周りからのさりげない視線や、「親としてどうなの」という言葉にならない評価、毎日の仕事や家事と子どものケアを両立させる難しさ。
時には、家族の中でも「どうすればよいのか」という意見の違いが生まれることもあるでしょう。
こういった状況は、心にも大きな負担になりかねません。
つらい時には、ぜひ休息をとりましょう。心を開ける人に少しだけ気持ちを話してみる。時には「今日はもう限界」と認めてみる。好きなことをして、自分が息をつける時間を作る。
ほんの小さな工夫が、明日への力になることもあります。子どものためにも、そして何よりあなた自身のために、自分を責めすぎないでください。
保護者も一人の人間です。自分を大切にすることは、決してわがままなことではありません。むしろ、子どもをしっかり支えるためにも必要なことです。
「完璧な親でなければ」というプレッシャーから少し自由になってもいいのです。完璧な親などいないのですから。
同じ悩みを持つ保護者同士のつながりも心強い支えになるでしょう。
悩みながらも、日々我が子と向き合っているあなた自身の存在こそが、実は子どもの最も大きな支えになっているのかもしれませんね。
9. おわりに:子どもと保護者のペースでゆっくり進めば大丈夫
不登校になったからといって、その子の人生が止まるわけではありません。
「学校に行かない=失敗」ではなく、「今は学校が合わないだけ」かもしれない。もしかしたら、別の環境なら、その子はのびのびと笑顔で過ごせるかもしれない。
子どもの可能性を信じてみましょう。
子どものペースや家庭の事情はそれぞれ違うものですし、他と比べる必要はありません。
一見、回り道に思えることも、後から振り返れば大切な経験だったと気づくことも多いものです。
大切なのは、いつでも子どもの味方であること、そしてどんな道でも一緒に歩いているよと伝え続けることではないでしょうか。
それだけで、きっと子どもは前を向く力を少しずつ取り戻していくでしょう。
※この記事は、不登校の子どもを持つ保護者の方に向けた情報共有を目的としています。心配なことがあれば、ぜひ専門機関にも相談してみてくださいね。