子どもが学校へ行かない。それどころか勉強もしない。ゲームばかりしている。昼夜逆転の生活もしている。
「このままでいいのだろうか」。そう思わない親は、ほとんどいないだろう。4月11日スタートの土曜ドラマ「タツキ先生は甘すぎる!」(日本テレビ系)の主人公でフリースクール「ユカナイ」のスタッフ タツキは、そんな子どもたちに対して、驚くほど“何もしない”。勉強を強制せず、生活リズムも正そうとしない。叱らない。急がせない。とことん、ゆるい。
当然、同僚や保護者からは「甘すぎる!」と指摘される。だが、タツキの動かない姿勢とは裏腹に、子どもたちは自分でも言葉にできなかった心の苦しさを、少しずつほどいていく。
本作が興味深いのは、理想化された架空の支援者を描く物語ではない点だ。私は監修として制作に関わっているが、実在のフリースクールや心理の現場で培われてきた理念と実践が、ドラマの骨格に組み込まれている。
なぜこうしたドラマが作られたのか。主演の浮田タツキ役 町田啓太さんに話を聞くと、いま子育てに迷う親世代にこそ、考えたいヒントが見えてきた。
俳優:町田啓太さんに聞く
「甘すぎる教育」が心を救う理由

――今回のドラマはフリースクールが中心の舞台です。「甘すぎる」というタツキ先生の姿勢を、どう思われましたか?
僕は、すごくいいなと思いました。ただ単に「甘い」というだけではなくて、そこにはタツキなりの考えや思いがあるんです。
今回、ドラマを撮影するにあたって、実際に神奈川県川崎市にあるフリースペース「えん」を訪れさせてもらいました。えんも、言わば「甘すぎる」居場所です。火遊びもOK、工具も金具も使ってOK。禁止事項は、ほとんどありません。
その場所で大人たちが何をしているのか。えんを運営する西野博之さんは「僕らは命に寄り添うんだ」と教えてくれました。すごく刺さりました。どう指導するかではなく、心と心で寄り添う。そういうことなんだろうなって。
――「命に寄り添う」とは、どんな対応なのでしょうか?
僕なんかではえらそうなことは言えませんが、子どもにとっては、大人が知ろうとしてくれるだけで救われるときがあると思うんです。
どんなアドバイスをするかではなくて、話を心から聞いてくれる。それだけで「自分は自分でいいんだ」と感じられるし、肯定されている気がする。寄り添ってくれているというのは、そういう態度だと思うんですね。
しかも、それを「やらなきゃ」ではなくて、「そうしたい」という思いからしてくれている。だから「甘すぎる」というよりも、その人の存在をまるごと肯定すること。それが命に寄り添うことではないかと思うんです。
フリースクールはエネルギーが漂う場所
――訪れたフリースクールは、何が印象的でしたか?
いくつも印象的なことがありました。あいにく当日は雨が降っていたので、来ていた子どもたちは少なかったのですが、なんだか漂うエネルギーがある場所でしたね。
子どもたちが作ったという遊具、泥の山、あちこちに落ちている鍋やフライパン。細部にこだわっている、整っているというわけではなくて、雑に見えるところもある。でも、とにかくエネルギッシュでした。壁のペインティングも力強くて、生命力を感じたんです。子どもが持っているエネルギーってすごいなって。
僕も山育ちなので、自然がちゃんとある場所ってすごく好きで。子どものときに出会っていたら、行きたかったと思いました。
――フリースクールのスタッフの方々と話した印象は?
スタッフの方もエネルギッシュでしたね。息継ぎもないぐらいに話されていましたし。それと、子どもたちと向き合うというのは、相当なエネルギーを使うんだろうなと。
印象的だったのが、スタッフルームには「甘いものが必須」なんだそうです。これにはすごく納得しましたね。子どもたちと向き合っていると、人間だからカーッとなることもあると思います。「なんでだろう」と打ちひしがれるときもあるでしょう。
でもそんなときは、いったん離れてガス抜きして、甘いものを食べて、また現場に戻っていく。そういう工夫も含めて、現場が生きているなって感じたんです。
スタッフのみなさんの目が生き生きとしていて。あの空気感やエネルギーを、作品に乗せていけたらと思っています。
甘すぎる態度に僕も救われたかも
――町田さんご自身も「学校へ行きたくない」と思う時期はあったのでしょうか?
ありましたよ。長期の欠席というよりは、たまに仮病を使う程度でしたが、行きたくない日はありました。
僕の生まれは小さな街だったので、小学校から中学校までは1学年1クラス。もっと言うと、幼稚園のころから、まわりも先輩後輩もほとんど変わらないメンバーなんですよ。もちろん友人もいましたが、やはり息が詰まりそうなときもありますよね。
そんなときは、体温計をこう指でこすってね(笑)。こんなこと母が聞いたら驚くでしょうね。いや、でもわかっていたかもしれませんね。僕の両親はともに教員です。僕の担任と両親も仲がよかったので、僕としては「休みたいなんて言いづらい」と思っていたんですけどね。
――今思えば、「休みたい」ときに救われた親御さんの対応は何でしたか?
無理に学校へ行かせようとしなかったことかもしれませんね。行きなさいと叱るのではなく、むしろ優しくしてくれるぐらい。いま考えれば、意外と“甘すぎる”態度に僕も救われていたのかも(笑)
――最後に、あらためて視聴者にいちばん届いてほしいことは何でしょうか。
やはり「こういう場所もある」ということが伝わってほしいです。
僕もそうでしたが、フリースクールをよく知らない方も多いと思います。でも知っていれば、子どもも親も、すこし選択肢が増える。未来がちょっと明るくなるのでは、と思っています。(了)

わが子だからこそ、親は焦る。勉強をさぼる。生活が乱れていく。そうなると、「取り返しがつかなくなる」という不安は大きくなる。
甘えられる場を用意して、子どもを信じて待つ。これほど怖い行為は、親にとってないだろう。親は正しい方向に戻そうとする。だが、その「正しさ」に追いつめられてきた子どもを、私は何度も取材してきた。
心が疲れきっているときに、行動だけを正そうとして急げば、関係も心も壊れてしまう。フリースクールの現場が大切にしているのは「順番」だ。先に整えるのは、成績でも生活リズムでもない。「ここに居ていい」という安心感である。
安心感を得るために、周囲がどんな葛藤や工夫を重ねるのか。ドラマで演じられるリアリティに注目していただきたい。
■ドラマ情報
タイトル:『タツキ先生は甘すぎる!』
放送開始:2026年4月11日放送開始
放送日時:毎週土曜よる9時~(日本テレビ系)
出演:出演:町田啓太、松本穂香、藤本美貴、寺田心、比嘉愛未、江口洋介、ほか
脚本:徳尾浩司
フリースクール監修:石井しこう
不登校ジャーナリスト
1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。NPO法人で、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なうほか、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者にも不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。
