ひび割れた教室の修復
文部科学省の調査によれば、2023年度の小・中・高等学校等におけるいじめの認知件数は約73万件に達し、過去最多を更新し続けています。重大事態も1,300件を超え、現場の「自浄作用」だけでは守りきれない現実が浮き彫りになっています。
■ 三つの視点:それぞれの正義が抱える「限界」
この問題が複雑なのは、被害側、加害側、そして教育現場という、立場の異なる三者がそれぞれの正義の中で身動きが取れなくなっているからです。
被害を受けたお子さんの視点に立てば、なぜ自分だけが居場所を奪われ、その後の学びの費用まで家庭で負わなければならないのかという孤独な問いが残ります。一方、現場の教師たちは、加害者への教育的指導を優先するあまり、結果として被害側の安全確保を後回しにしてしまうという、組織構造上の限界に直面しています。
■ 「寝屋川モデル」:教育の外側に置かれた防波堤
こうした閉塞感を打ち破る事例として注目されているのが、大阪府寝屋川市の「寝屋川モデル」です。この仕組みの最大の特徴は、いじめの解決を学校だけに任せず、市長部局に設置された独立組織「監察課」が介入する点にあります。
監察課には弁護士や元警察官、臨床心理士といった専門家が配置されています。彼らは学校の人間関係に左右されない第三者の立場で調査を行い、法やルールに基づいて「いじめ」を認定します。
学校が指導で解決しようとして時間を費やすのではなく、行政が直接、加害者側に対して是正勧告や出席停止を含む強力な働きかけを行う。この「教育の外側に法と専門性を持たせる」仕組みこそが、子どもの命を守る確実な防波堤となっています。
■ 学びのインフラに潜む、経済的な不一致
現在、もっとも深刻な不一致は費用のあり方です。いじめという不可抗力によって公立校での無償教育が断たれたとき、フリースクールなど外の学びへ切り替える費用は、いまだにその多くが家庭負担です。
東京都や滋賀県のように、利用料の助成に踏み出す自治体も出始めていますが、全国的にはまだ不平等が続いています。この経済的な重石こそが、親子の選択肢を奪い、不当な不条理感を生む根源となっています。
■ 誰もが自分に合った「器」を選べる社会へ
学校は学びの場の一つであっても、人生のすべてではありません。もし教室という器にひびが入ったのなら、お子さんは自分の感性に合った「新しい学びの場」を自ら選び取っていい。
いじめを未然に防ぐ努力はもちろん、万が一の際には寝屋川モデルのように専門機関が迅速に環境を整え、かつ外での学びを社会全体で支えるインフラを構築すること。その選択を社会が全肯定することこそが、この不条理に対するもっとも誠実な回答になるはずです。
Unschool. Unlock.
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