不登校の背景にある身体的リスク
「朝、どうしても起きられない。無理に立たせようとすると顔面が蒼白になり、意識が遠のく。だが昼を過ぎれば、何事もなかったように笑顔でリビングに現れる」
全国で多くの中高生の保護者が「私の育て方のせいか」「本人の甘えなのか」と自責の念を抱き、孤独な朝を繰り返しています。しかしこれは怠けではなく、自律神経の病気です。
その名は、「起立性調節障害(OD)」。
罹患率は中学生の約10%、高校生の約15%にのぼり、クラスに3人はこの見えない壁と戦っている計算になります。
■ 身体の成長に「システム」が追いつかない
ODは、自律神経の働きが乱れ、血圧や心拍数を適切にコントロールできなくなる病気です。
通常、人間が立ち上がれば自律神経が血管を収縮させ、脳へ血液を押し上げます。しかし、ODを発症した子どもはこのスイッチが正常に作動せず、脳への血流が不足し、激しい立ちくらみ、頭痛、動悸が襲います。
中高生に多い理由は、人生で最も急激に身体が成長する時期だからです。骨格や臓器の急成長に対し、制御システムである自律神経の成熟が追いつかないことが原因とされます。
■ 不登校の原因としての「起立性調節障害」
特筆すべきは、この病気が不登校の深刻な引き金になっているという事実です。
エビデンス(統計データ)によれば、不登校生徒の約3割から4割にODが合併していることが報告されています。つまり、不登校という現象の裏側には、精神的な悩み以前に「物理的に朝、身体が動かない」という深刻な身体疾患が隠れているケースが非常に多いのです。
午前中に症状が強く出るため、1時間目からの登校が困難になり、結果として学習の遅れや友人関係の疎遠を招きます。これが「学校へ行きたくても行けない」という二次的な心理的葛藤を生み、不登校を長期化させる悪循環を生んでいます。
■ 社会復帰を困難にする「負の連鎖」
ODの影響は、学生時代だけでは終わりません。
「午後になれば元気なら、我慢して学校へ行くべきだ」という周囲の誤解や無理な登校の強要は、本人の自尊心を著しく低下させます。中等症から重症のOD患者のうち、約1/3がその後も社会復帰に困難を感じるという推計もあります。
無理を重ねることで「うつ病」などの精神疾患を併発したり、朝型の社会システムに適合できない自分を「社会不適合者」と思い込んでしまうことで、ひきこもりや就労困難に繋がるリスクが高まってしまうのです。
■ 専門医による診断と「環境調整」を
救いの第一歩は、小児科の専門医(小児心身医学を専門とする医師)への相談です。
新起立試験などで症状を客観的に数値化することは、単なる「甘え」ではないことを証明し、本人、家族、そして学校が共通認識を持つための必須ステップです。
投薬治療も有効ですが、最も重要なのは「朝に縛られない環境調整」です。午後登校の公認やICT学習の活用など、身体の回復を待つための「新しい学びの形」を取り入れることが、将来的な社会復帰への最短ルートとなります。
■ 周囲に知ってほしいこと
日本小児心身医学会では、周囲の理解を助けるためのパンフレットを公開しています。
【外部資料リンク】
日本小児心身医学会:起立性調節障害パンフレット(PDF)
※学校への説明や、本人の安心材料として非常に有益な資料です。
「朝、起きられないのは、一生懸命に生きている身体の悲鳴」
起立性調節障害という病気への周囲の理解が苦しんでいる子供たちの回復を手助けすることにもつながります。
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