「保護者の方にも、子どもたちにも、ミチシルを通して元気になってほしい」
「不登校が特別じゃない社会になってほしい」
そんな想いを熱く語ってくれたのは、フリースクール「ミチシル」代表理事・加藤伸也さんです。自身も不登校経験がある加藤さんは、2人のお子さんの不登校問題と直面したことをきっかけに「発達障害の子をもつ親の会~話してみませんか?」を設立。ミチシルは実際に親子をサポートできる居場所を作りたいという願いから生まれたと言います。
今回は、そんな加藤さんに、ミチシル設立の経緯や楽しさ、やりがいについてお話を伺います。今後の「ココン」との連携についても展望を語っていただきました。
ミチシル・加藤伸也さん
・静岡県裾野市にて、フリースクール・ミチシルを主催
・不登校経験のある高校2年生、小学校6年生のお子さんをもつ父
・加藤さん本人も不登校経験あり
・妻とともに不登校の子どもたちを受け入れる場所を作ることになり、現在に至る
ミチシルのHPはこちらから!
・ミチシルの特徴は「カリキュラムがないこと」
目次
■フリースクールを開設した動機
▲「Facebookコミュニティリーダーシップ」受賞の際の記念写真
——フリースクール・ミチシルをスタートしたきっかけを教えてください。
もともと長男に発達障害があって、「発達障害の子をもつ親の会~話してみませんか?」というものを妻と2人で始めたのがきっかけです。
Facebookでグループを作ったところ、メンバーが9000人くらいにまで増えました。その活動をFacebookが認めてくれて。世界で100人が選ばれる「Facebookコミュニティリーダーシップ」というものに選出していただいたんです。
——そんな賞があるんですね。世界で100人のうちに選ばれるなんてすごいです!
その賞金で、Facebookから500万円いただいたんです。「じゃあそのお金でなにをしようか」と考えたときに「じゃあ不登校の子・発達障害の子を受け入れる場所をつくろう、フリースクールを作ろう」という話になりました。
——500万!では、資金も入ってきたぞというタイミングでスタートしようと決めたわけですね。
■フリースクール・ミチシルの特徴
——では、そんなフリースクール・ミチシル。どんな授業をしているのでしょうか。
一番の特徴はカリキュラムがないことです。
子どもたちが自由に来て、自由にやりたいことをする。やりたいことがあるけど今はまだできない、という時には、相談してもらう。従来の勉強とはまた違った方法で、子どもたちは日々学習をしています。
——自由にやりたいこと……というのは……?
お菓子を作る、料理を作る、スライムを作る、バドミントンをする……なんでもOKです。「今日はこんなことをしてみたい!」というのを子どもたちから出してもらって、みんなで取り組んでいく。
今できないことであれば、「実現するにはどうしたらいいか」をみんなで考えるというのを中心にしています。
——一般的な学校のように、「この時間には国語」というような時間割があるわけではなく、子どもたちから出てきた活動に取り組むスタイルということですね。
今、お菓子や料理作りという話もありましたが、必要な設備は整っていて、どんな希望がでてきても対応できるような状態……ということなのでしょうか?
少しずつ揃えていっている途中ですね。
現在の設備や道具ではできない、というときには、「じゃあどういう道具が必要なんだろう」「なにを用意したらいいんだろう」というのをみんなで調べてみたり、買ってみたり。お金が足りないのであれば、どうやったらお金が貯まるのか?というのを考えて、実際に叶えていく。目標にして行動していくということをしています。
——ないからできない!で終わりではなく、どのように動けばいいのかを考えていく。課題も自分で考えて探していく……まさに生きる力、今求められている能力な気がします……!
遊んでいるだけに見えることもありますが、遊びも勉強だと思っているので見守っています。
——1日中遊びたい!と言う声があっても、その意見も受け入れる、と。
そうですね、一日中ゲームしかしない日というのもあります。
——それも含めて全部自由に選べる、個人を尊重する場ということですね!
では、実際にどんな子どもたちが利用しているのでしょうか?
小学校5年生から高校2年生までの男女です。
発達的な特徴がある子、いじめがきっかけで不登校になった子もいます。なので、最初来た時には自己肯定感が低い子も多いですね。
——なにかエピソードはありますか?
例えば1人例を挙げると、「なにをしたい?」と聞いても、「なんでもいいです」と言う子がいました。「おやつなに食べたい?」とかの質問にも「なんでもいい」としか言わなかった。けれど、ミチシルに通ううちに、だんだん自分を出せるようになっていきました。
「あれがやりたい」「これがやりたい」「みんな、これをやらない?」といって周りを誘うようにもなっていきました。
だんだんと自分の言葉、自我を出せるようになり、望みも言えるようになったのです。笑顔も増えてきて、自己肯定感が高まったなと思います。
——目に見える変化がこんなにもあるなんてすごいです……!
発達障害をもつお子さんについても、こんなエピソードがあります。
「あれやりたい」「これやりたい」という主張が激しすぎて、誰に何言っても聞いてもらえない環境で育ってきたお子さんの例です。
ミチシルに来ている他の子たちも、自分たちも同じような経験がある子たち。なので、その子の話に耳を傾けて「じゃあ、それやってみようか」「今は無理だけど明日やろうね」と寄り添って、反応してあげている場面が多いです。その子はミチシルのなかでも一番小さい年齢の子なんですが、「お兄さんお姉さんにめぐり会えた!」という感じで生き生きと過ごしていますね。
——近い境遇の子たちが集まっているからこそ、お互いに思い遣って過ごせているんですね。子どもたちにとってはミチシルが「自分たちの居場所」という感じなんでしょうね。
■「親と子のいばしょ」としてのミチシル
▲ミチシルHP「親と子のいばしょ」ページより
——居場所……という話でいくと、ホームページを見ると「親と子のいばしょ」という言葉もあります。どのような想いでこのコンセプトを決めたのか、裏側を是非教えていただきたいです。
最初にあったのが「親である自分たちがつらかった」という想いです。
金銭的にも、勉強の支援にしても、居場所にしても、なんの支援も得られなくて、つらかったんです。同じ思いをしている人をできるだけ助けたいなと。「その想い知ってるよ」「その苦しさ知ってるよ」って、話を聞いてあげるだけでも保護者は元気になると思う。保護者が元気になると、子どもにも優しく落ち着いて接することができる。
——お子さんだけでなく、保護者も元気であることが大事ということですね。
親子関係は「相互作用」だと思うんですよね。双方がストレスを感じている状態ではうまくいかない。お子さんを元気にするには保護者、保護者を元気にするためには子どもが笑っている必要があるのかなと。
子どもと一緒に保護者もケアをして、元気になってもらいたいと思っています。
——なるほど。過去の自分たちに向けて、自分たちが欲しかったサービスを作るという意味合いもあるのですね。ミチシルで行われている「ペアレントトレーニング」も、保護者へのケアの1つとして提供されているのですか?
そうですね。最初は自分たちが別の場所で受けてみてすごくよかったので、講師の方からやり方等を教えていただいてスタートしました。
——実際に受けてみた保護者の方のリアクションはいかがでしたか?
子どもとの接し方、声の掛け方という点ですね。「叱るような言い方をしなくても指示が通るようになった」「優しい、褒めるような言い方で伝わるようになった」という声が多いです。
——肯定的な言い方でこちらの意図を伝えていけるのはいいですね……!そうやって、お子さんと保護者の方と、双方向からのケアをしているということですね。まさに「親子のいばしょ」ですね!
■学校との連携の方法
——では、学校との連携はどうでしょうか?どのように行っていますか?
そんなにしていないですね。子どもたちは「学校とは関わりたくない」という場合が多いです。前提として、子どもたちはまずミチシルとの信頼関係を作ろうとしているところ。
なので、子どもたちを飛び越えて学校の先生とやりとりをしてしまうと、子どもたちからしたら「裏切者」のようになっちゃう。学校と話をするときには事前に子どもたちに「こういう理由で学校の先生と話すんだけど、大丈夫?」というふうに確認を必ずしています。
——ミチシルと子どもたちとの信頼関係を最優先にしているということですね!保護者と学校との連携というのはどれくらいあるのでしょうか?
それも同様で、子どもたちを飛び越えないようにということだけはお願いしています。
「先生側についている」とならないように、「学校から電話があって、こういう話をしたよ」と共有するということは意識してもらっています。
——親と子、ミチシルとの協力、信頼作りを大事にしているのですね。
では、親子のサポートの際、ミチシルが心がけていることはありますか。
まずは「子どもたちに元気になってほしい」という想いが一番にあります。
そのため、「強制はしない」ということ。「みんなでやろう」も強制しない。1人でいたいのであれば、1人で過ごしてもいい。
みんなで仲良くしていることが正しい、けんかしないことが正しい、ではないと思っています。
——その子にとっての「元気になれる方法」を探していく感じですか?
そうですね。1人でいたいのであれば、1人でいる時間がその子には必要ということ。集団でいるとすごく疲れてしまうという子も中にはいるので。そういう場合は、スタッフがついて、個別で話を聞いたりして対応します。
食事をしたときに、お皿を自分で洗ってもいいし、別に洗わなくてもいい。料理も、作りたいから作る、作ったけど自分は食べないという子もいます。「しつけ」はご家庭でされていると思うので、強制しません。
■ミチシル運営のなかで感じたやりがい
▲【不登校の親の会】の様子
——ミチシルの活動やスクールの運営を通して、嬉しかったこと、やりがいを感じたことについて聞かせてください。
親子の仲が悪かった子がいて……親になにを話しかけられても子どもは返事もちゃんとしなかったけれど、ミチシルに通うようになって関係が改善したということがありました。
最初はそれこそ「うっせぇな」「いいから早く帰れよ」といったような感じでした。
1年2年過ごすうち、だんだん保護者の方と会話できるようになって、最後は母親と散歩しながら話ができるまで仲良くなりました。子どもに心の余裕ができて、保護者の方を「許せた」のかなと思いますね。
——ミチシルへの通学を通して、親子関係が改善されたのですね。運営側からすると、嬉しい変化ですね。
そうですね。「楽しそうに過ごしているように見えて、実は家庭環境につらい想いを抱えていた」ということを、2年越しに話してくれた子もいました。
姉に大きな病気があって、「親は姉ばかりに手をかけていて、自分は相手にされていない」「誰にも頼れない」という想いを抱えて過ごしていたんだそうです。
ミチシルに来て救われたという話を聞かせてもらえたときは嬉しかったですね。
——ご家庭での問題を抱えているお子さんは多いですか?
多いですね……。
保護者の方からすると学校に行っているのが「普通」じゃないですか。だから、学校に行かなくなると、その段階でひと悶着あるんですよね。「なんで学校いかないの?」「みんな頑張ってるじゃない」って。そういったところから不信感が生まれて、親子関係が崩れていくことは多いですね。
——ミチシルを利用することで、お子さんの心の余裕作りと、保護者の方へのケアもでき、結果関係がよくなる?
そうですね。保護者の方もお子さんと離れる時間が作れるというのはすごくいいことだと思っていて。
そのあいだにお茶をしたり、趣味をしたり……息抜きがあるからこそ、一緒にいるときに手をかけてあげられる。24時間一緒にいると息が詰まってしまうというのは自分自身経験があるので、保護者の方にとっても、子どもと離れる時間も必要だというのも、思ってやってますね。
■ミチシル運営のなかで感じた大変さ
——最初はFacebookのサークルから活動がスタートしたというお話もありました。ここまでの道のりで大変だったこと、苦労したこともたくさんあったかと思います。特に印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。
Facebookでは、無料のグループからスタートしました。9000人の規模になったので、管理するだけでも手間も労力もかかったけれど……お金にならない。全てボランティアというのが大変でした。お金の話を出すと叩かれる。「教育や福祉は基本無料!」というような風潮があり、とても悩みました。
——教育や福祉はボランティアがあたりまえ、という感覚、すごくわかります……。ミチシルのなかでは、いかがですか?
発達障害があってキレやすい子と、その子をわざとあおる子がいて、しょっちゅうケンカをしているということがよくありました。「大変だった」というわけではないのですが、場の雰囲気が悪くなってしまい困った、という場面は多々ありましたね。
——そういった場合、大人はどのように対処するのですか?
基本的には両方に個別で話をします。
どちらかを叱るとどっちかの味方になっているような感じになってしまうので。そもそもミチシルでは、叱るということはしないのですが。
——叱らずに話をするというのは、どんなふうな声掛けをするのでしょうか?
「帰る!」と言った子は、そのまま安全に帰らせます。その上で、残ったほうの子と「どうしてあの子は帰っちゃったのかな?」「傷ついちゃったのかな?」と考えています。
その子を責めるのではなく「どうすればよかったかな?」とまず話すイメージです。帰っちゃった子は、次登校したときに「この前どうだった?」と声を掛ける。あくまでも個別で、それぞれに知られないように話をします。
——学校とのやりとりのときにも話がありましたが「どちらかの味方にならないように」というのはポイントですね。その子本人との信頼関係を大事にしているのが伝わってきます。
そうですね。とにかく「味方だよ」「絶対に裏切らないよ」ということを示しています。
■ココンとの連携に期待すること
——そんな魅力的な教育を展開しているミチシル。ココンと連携する上で期待していることはなにかありますか?
教育のプロが、学習のサポートをしてくれるという点です。
フリースクールは、勉強のフォローが少ない場合が多いです。そのため、元教員が教えてくれてくれるココンのサービスは非常に魅力的です。教育のプロが教えてくれるというのは、フリースクール単体ではなかなかできることではないので、そこは大きいかなと思っています。
——教育のなかでも、「教科教育」のサポートをココンにお願いするイメージですね。
フリースクールに通っていると、子どもたちもだんだん元気になっていきます。元気になってくると、将来を考えるようになる。そして、将来を考えるようになると、漠然と不安をもつようになります。「俺、勉強してないけど大丈夫かな」と。そんな不安をもっている子どもたちに「こんな方法もあるよ」と提示できる1つの方法として、ココンのオンラインサービスがあるのかなと思っています。
——カリキュラムなしで自由に学べるミチシルと、勉強面のサポートをプロがしてくれるココン。適材適所ですね!進路、キャリアの方面はどうですか?
ココンを通じて、企業さんと繋がる機会をもてたらと思っています。
子どもたち自身が持っているスキルは教科学習のものさしでは図れないことも多いです。そういう能力を企業さんに多く知ってもらいたいですね。
ココンと提携することで、「出席扱い」にしてもらうこともできる予定です。その結果、開ける進路の幅も広がると思っています。ココンを通じた他のフリースクールとの情報共有にも期待しています。
——ココンとの連携で、ミチシルだけでなく、フリースクール全体の可能性が大きく変わっていきそうですね!
■加藤さんの考える「今後の展望」
——ミチシルでこれからやりたいこと、加藤さん自身がこれからやってみたいことについて教えてください。
地域連携ですね。
子どもたちを取り巻く環境——学校、地域社会、あるいはオンラインでの世界もそうかもしれないですが——そういった子どもたちに影響を与えるものと繋がって、包括的に子どもの育ちをバックアップしたいです。
フリースクールはその1つの側面。子どもたちが元気になってきたら、フリースクールからは巣立って、次の段階に進んでいけばいい。通信制の学校でもいいし、専門学校でもいい、企業への就職でもいい。
地域含め、そういった人たちと繋がって不登校から元気になって回復して「こんな子がいますよ」「こんな子が社会に出て活躍していますよ」という実績を作っていきたい。
そうして、「不登校が特別じゃない社会」になっていけばいいかなと思います。
——「不登校が特別じゃない社会」!素敵です。地域全体で子どもたちのサポートができる環境は本当に理想ですね。
ココンとの連携もスタートするミチシル、そして加藤さんたちの今後から、ますます目が離せませんね。応援しています!
ミチシルについて詳しく知りたい方はこちらから!