2023年度4月からスタートした「千葉県不登校児童生徒の教育機会の確保を支援する条例」。不登校の子どもたちの支援に特化した条例の制定は全国で初めてのものになり、注目を集めています。この画期的な条例をどのように活用していくのか、千葉県教育委員会ではさっそく運用に向けて動き出しているそうです。
千葉県の不登校問題への姿勢は?
条例成立でどんなふうに変わる?
これからの展望は?
千葉県教育委員会の担当者にお話を伺ってきました。
※「千葉県不登校児童生徒の教育機会の確保を支援する条例」については【こちら】から。
「千葉県不登校児童生徒の教育機会の確保を支援する条例」について
—— 条例が成立した背景を教えてください。
条例自体は議員が提案したもので、いわゆる「議員立法」です。国で「教育機会確保法」が制定された後、千葉県でも条例制定を目指し、2023年2月に条例案が提案され、全会一致で可決されたという経緯です。
※「教育機会確保法」
=義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律
—— 教育委員会からも「不登校児童生徒・保護者のためのサポートガイド」を発行するなど、千葉県全体として不登校問題に力を入れている印象があります。
平成25年くらいから不登校児童・生徒は増加傾向にあり、県としても重要な課題ということで取り組んできています。
—— 「不登校児童生徒・保護者のためのサポートガイド」には、フリースクールや親の会の一覧が載っています。条例制定以前から、連携しつつ取り組みをしていたのでしょうか。
そうですね。連携という意味だと、「千葉県フリースクール等ネットワーク」と懇談会を設け、意見交換をしています。
—— 実際に不登校問題に直面している保護者やフリースクール側の「生の声」を大事にしていく、ということですね。
実際に学校以外の教育の場を提供されている方々ですので、そういった方たちの意見も聞きつつ連携して進めて行く必要があると思います。
—— 意見交換、という部分ですと、今回の条例についても「(仮称)千葉県不登校児童生徒の教育機会の確保を支援する条例(案)について、ご意見を募集します」というかたちで意見の公募も行っていたかと思います。
パブリックコメントですね。自民党が条例案を提案するに当たり、行っていたものです。
※(仮称)千葉県不登校児童生徒の教育機会の確保を支援する条例(案)について、ご意見を募集します
—— 財政措置については「県は、必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努める」という努力義務にとどまっています。それについてはどのような見解ですか?
基本方針を決めてから具体的なことを決めていくかたちになるので、どのような支援が実際に効果があるのかを考えながら進めていくかたちになるかと思います。まずは、どのような対策が必要とされているのか、ご意見なども聞きながらスタートしていく予定です。
千葉県内の不登校の現状について
—— 不登校の児童生徒の不登校の数はどれくらいですか?
2021年度の千葉県内の公立小中学校における不登校児童生徒数は、小学校・中学校合わせて9,951人です。
※参考
小学校において不登校を理由としている児童数は3,583人で、前年度の2,691人より892人増加し、全児童に対する割合は1.18%で0.3ポイント増加。中学校において不登校を理由としている生徒数は6,368人で、前年度の5,159人より1,209人増加し、全生徒に対する割合は4.30%で0.78ポイント増加。
出典:令和3年度「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の概要/千葉県 (chiba.lg.jp)
—— そのうちフリースクールに通っている生徒さんの数は……。
民間団体・民間施設における相談・指導等の割合は、小学校ですと、全国で4.9%に対して、千葉県内では5.1%。中学生では、全国で3.1%に対して、千葉県では3.0%という割合です。
—— なるほど。では、県としてもこの条例をきっかけに、学校外の学びの機会を積極的に推進し、学校外の学びを頑張るお子さんの評価・サポートをするという方向性で進んでいくのでしょうか。
今回の条例には、「基本理念」というものがあります。このなかにも「登校できるようになることのみを目標とせず、将来の社会的自立を目指す」とあります。
不登校児童生徒1人1人にの状況に合わせて、学びのかたちを考えていかないといけないので、不登校特例校などの公的施設や学校以外の施設など、多様な場を用意する必要があると感じています。
—— 他の自治体への問い合わせで、教育委員会は学校への復帰、学校回りへの対応を中心にしているから学校外への学びにはなかなか対応できていませんという声を聞くこともあります。
学校外での学びを保障するという姿勢は、国の「教育機会確保法」でも明確にされています。学校に来ないというだけで、学びから除外する、学びを提供しないという考えは持っていません。
—— 不登校児童生徒のなかには、高校から新しく変わりたい!というお子さんも多くいらっしゃいます。一方で、「内申点がもらえない」「学力が足りなくて希望の高校に進めない」というお子さんも多いのが現状のようです。
そこで、いま一部では、内申点を重視しないという学校も増えており、そこに希望を見出すお子さんも増えています。今は多くなかったとしても、千葉県としてはそのようなものも増やす可能性はあるのでしょうか?
県としても、出席扱いをどうするか?評価をどうするか?は重要な課題と認識しています。
条例では、フリースクール・市町村・学校・学識経験者等が参加する「連絡協議会」を作り、どんな支援をしたらいいかを検討し、施策を総合的に推進するための「基本方針」を策定することになっています。そして、基本方針に基づいて施策を展開していく形です。。
今後、連絡協議会における協議の中で、そのような議論があれば、検討することになると思います。
今後の方向性と懸念点
—— 全国初の条例ということで、千葉県の動きに全国から注目が集まることになるかと思います。
条例のもと、今後具体的に動いていくことになるかと思いますが、こういう方向性でやっていきたい、こうしていきたいという展望を教えてください。
「不登校児童生徒であっても、将来社会的に自立できるということが大切」という考えです。これからの施策もそれに向けて進めていける、後押しになる条例にしていきたいですね。
—— 逆に、条例による懸念点があれば伺いたいです。
学校に行かなくていいのでは?という考えが広まり、不登校の子がもっと増えるということも想定されます。しかし、それに対しては、学校の整備、「安心して快適に過ごせる学校」というのも同時に考えて行かなくてはならないと思っています。どちらか一方ではなく、学校外における不登校向けの施策、現状の学校の向上という両輪で進めていくつもりです。
議会で超党派の議員の方々が子ども達のために真剣に議論し、関係団体や千葉県とも密に意見交換を行った上で制定されたこちらの条例。学校・学校外問わず、教育現場全体が「誰にとってもよりよい教育の場」としてアップデートされていく過程に期待しています!