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スタッフインタビュー

洲崎 祐貴 氏

答えてくれたのは
株式会社CoConの代表取締役
洲崎 祐貴 氏

不登校の子が学べる仕組み

「電球を発明したトーマス・エジソンも、iPhoneをつくったスティーブ・ジョブズも、学校になじめなかったと言われています。掃除機で知られる『ダイソン』の創業者、ジェームス・ダイソンも同じだったようです。彼は『孤独を恐れず、常に人とは違うやり方を選んできました』と振り返っています。
不登校になる子は『自分のペースでやりたいことを突き詰められる』といった特別な才能を持っていることも多いんです。だから、学校や先生が『集団教育でみんな同じように進んでいこう』と考えるとなじめません。そこで私は、子どもが不登校になっても、保護者の方が安心でき、子どもの才能を自由に伸ばせる社会を築きたいと考えたのです」

株式会社CoConの代表取締役、洲﨑祐貴氏が話します。同社の事業は、先生と子どもを繋ぐマッチングプラットフォーム。学校に通わない子どもとその保護者が登録を行うと、教員免許を持った元教員などと繋がり、自由な時間に、自由な科目を、リモートで、好きな先生から教わることができます。

「今、不登校の子どもは全国に約24万人います。不登校になる割合は約3%。決して低い数字ではなく、不登校は『よくあること』だと言えるでしょう。しかしこの子たちの多くは……いえ、時には保護者の方すら“レールから外れた存在になってしまう”と焦りを感じ、より追い詰められてしまうことが多いのです。私は、不登校のお子さんが学校に行かなくても引け目なく好きなことを学べる仕組みが早急に必要だと感じています」

教員と子どもが自由に繋がる『これだけのメリット』

洲﨑代表は、鉄砲が伝来した種子島の出身。それが起業のきっかけになったと話します。

「私はたまたま勉強が好きだったのですが、当時、島には進学塾もなく、学びたいと思ってもできるのは学校の宿題くらい。成績がよかったため、友達から『あいつは隠れて勉強しまくってる』とからかわれることもありました。島の暮らしは楽しかったのですが、勉強に関しては『自分に合った環境で自分に合った勉強したい』という思いがありました。

 起業のきっかけは、リモートワークだったと言います。洲﨑氏は大学卒業後、大手製薬会社等で勤務していました。そして2020年、新型コロナウイルスが蔓延してリモートワークが当たり前の世の中になると、彼の中で、子どもの頃の思いと「何でもリモートで自由にできる」現実が重なったのです。彼は考えました。

「不登校の子はコミュニケーションに苦手意識あって、塾に通って同世代の子どもたちの輪に入っていくことが怖い場合もありますが、パソコンを通してリモートで授業を行えば抵抗感は少ないはずです。学校では『先生の教え方が合わないから別の先生にしてほしい』というわけにいきませんが、全国を網羅したマッチングシステムをつくれば子どもたちは納得できるまで先生を選べます

 教える側にとっても有益だと言います。

「念願かなって学校の先生になったのに、勤務時間が長すぎる、職場環境が自分に合わない、家族の介護と両立できない、といった理由で辞めてしまう方が多くいらっしゃるのです。しかし教育免許を取得した人たちは、元々、教えることが好きで、子どもや自分が好きな教科などに強い愛情を持っています。その方たちに、もう一度、ご活躍いただける場を創り出せるのです」

学べば子どもは自信を取り戻す

 試しに退職した先生をSNSで探し、このビジネスモデルを伝えると、元教員の多くが「私もやってみたい」と関心を示してくれました。参加資格は「教育免許を持っている」こと。学びたい子の負担を減らすため、家庭教師程度の料金で教えてくれる人が望ましいが、副業として教えたい人も大歓迎、としました。すると、募集開始からわずか数日で、現段階では十分すぎるほど様々な先生が集まってくれたと言います。

なかでも『教える工夫を楽しんでくださる先生』を選びました。学校の雰囲気、カリキュラムになじめなかった子に『学校で教えた通りに教えます』では意味が薄いはず。この事業には、子どもの性格ややりたいことに合わせ、臨機応変に教え方を変えていける先生が向いていると考えたのです」

洲﨑氏は、このシステムを『CoCon(ココン)』と名付けました。

「閉じているドアをノックする音で、フランス語で『蚕の繭』という意味もあります。『Co』の部分には、英語の接頭詞で『一緒に』という意味もあります。すなわち、閉じこもっている子どもの心のドアをノックし、先生は場所や時間にとらわれず『古今』東西の森羅万象を教えてくれる――そんな意味をこめました」

同時にシステムの構築を始めました。極力、ハードルは下げたと言います。必要なことは、保護者と子どもが登録して、IDとパスワードを発行するだけ。その後、ログインして「算数」と選択すると、先生方の顔写真とプロフィールが表示され、その中から「今週水曜の夕方5時に算数を教えてくれる先生は?」などと選んでいきます。

料金も極力安くしました。小学生が1時間3000円で、中学生は3500円です。プロの家庭教師を呼べば1時間で1万円前後、月に4回授業を受けても学習塾と同じか安価ですから破格と言えると思います」

事業を開始すると、SNS、ホームページ、フリースクール経由でサービスを知った保護者と子どもが集まり始めました。洲﨑氏はすぐ、CoConはメンタルにもいい影響があると感じるようになったと言います。

「学校になじめない子どもたちは最初『まだら登校』になります。学校に行く日もあれば、行かない日もある、という状態です。次第にほかの子供たちの輪に加わることができなくなり、より学校から遠ざかろうとします。その頃にはもうメンタルはボロボロで、鬱のようになってしまう子どもも多いんです。ところが『自分は学校と合わなかっただけなんだ』と感じ『勉強でも遅れはとっていない』と感じてくると、多くのお子さんたちが自信を取り戻していったんです

将来は、学校ではできない体験も

今、洲﨑氏のもとには様々な感想が寄せられています。なかでも彼が驚いたのは、CoConが保護者の方や先生にとってのメリットも創出していることでした。

「保護者の方が私にしみじみ『子どもが不登校になってから自分も仕事に出られなくなったけど、これで安心できる』と仰るんです。ほかにも『学校に行かないと進学も就職もできないとネガティブになっていました。でも、そんなことはないとわかったんです』と仰る方もいました。先生の中にも『自分の工夫が生かせる! 私が輝ける場所はここだった!』と言ってくれた方がいます。と我ながらジーンとしましたね(笑)」

 そんななか、洲﨑氏はさらに面白い体験を重ねていきました。事前に想定していなかった生徒が、CoConに加わったのです。

「カナダ人の男性と結婚され、向こうで暮らすお母様から『夏休み、息子が日本の学校に編入します、事前に漢字を学べますか?』と問い合わせがありました。その後、日本とカナダを結んでリモートで授業を受けていただくと、数か月後、お母様から『子供が“学校で漢字が読めた!”と喜んでくれました』とご連絡があったんです。また、今は小学校3年生なのに5年生が学ぶ内容を勉強しているお子さんもいます」

CoConの可能性は、不登校の子に教えるだけではなかったのです。これを受け、洲﨑氏は次々と新たな展開を模索していきます

「将来は、例えばファッションブランドの方が先生になってデザインの講座をやってもいい、自動車メーカーの技術者の方が科学を語ってもいい。キャンプ場を運営している企業に協賛をいただいて、親子でキャンプに行ってもいいですよね。学校に行っている子が『あの子だけ面白そうな体験しててずるい!』と言ってくれるような場にしていきたいんです

洲﨑氏は、最後に思い切ったことを言います。

「「私はもっともっと、世界にチャンスをばらまきたい。選択肢が多ければ、その分、羽ばたける子どもは増えていくはずですから!」

(取材/文 夏目幸明)