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WATASHI 特別インタビュー #01

子どもの不登校に悩み、戸惑いながらも前を向いて「今を、生きる」

今回はWATASHIの取材を通じて出会った明美さんの特別インタビューをお届けします。

 


 
 

 
 
 

私って自己探求のヘンタイなんですよ笑

壮絶な子育てを経て、 ようやく見えてきた「今を生きること」 の大切さ

 

 

 
 

初秋の陽光が旧江戸川の川辺を優しく照らす。

気持ちの良い風が吹き抜ける散歩道で、 明美さん(41 歳)にお話を伺いました。ブラック× オレンジの秋らしいコーディネーションに身を包んだ彼女。

さり気なく掛けたA.P.C.のショルダーバッグが、 大人の魅力を一層引き立てています。

 

 

 

 

「どん底から這い上がった」 壮絶な日々

 

青森県出身。

服飾の専門学校を卒業して上京した明美さんは、 東京で10 年以上一人暮らしをしてきました。

ですが、 その間ずっと心の奥底には違和感がありました。

 

「今思えば、 当時からなんとなく生きづらさを感じていた気がします。社会に出て働き始めるとより辛くなってきて。

徐々にどうしようもなくなってきたんです。 でも見て見ぬふりをしていた」

 

親の喧嘩が絶えない家庭で育った明美さん。

両親に話を聞いてもらえない環境では、 やがて兄弟たちも親へ声をかけなくなり、 それぞれが個に篭るようになっていきました。

親の空気を読んで生きることが、 彼女の人生の基本形になっていたのです。

 

結婚する直前、 ついに鬱になります。

精神も体力もお金も尽き果てた時、 夫と出会いました。

「東京で生きるのを止めようというタイミングでした。

旦那さんがいると安心して眠れるんです。 本当に、 ここで延命できました(笑)」

 

しかし新婚生活が始まっても、 心の苦しさは続きました。
 
 

最近のお気に入りはA.P.C.のショルダーバッグ

 

「~すべき」 という呪縛

 

結婚式もしたくないのに「普通は結婚式をするべき」 と考えて式を挙げた。

子どもたちが生まれてからも、 社会通念や世間体を基準に判断する癖は変わりませんでした。

 

「これまでずっと『~すべき』 か『~すべきでないか』 の基準で考えて生きてきたんです」
 

その呪縛が、 最も試されることになります。

 

 

嵐のような子育ての日々

 

娘さんが幼稚園の時は、 「行こう」 と声をかければ行ってくれました。ですが息子さんは少し違いました。

園での集団生活に馴染めず、強いストレスや緊張が表に出てしまうことが多かったそうです。

そのころからチックの症状も現れ、明美さんの心身も限界に近づいていきました。

 

「心労でどんどん痩せていきました。 眠れない日が続いて。 その中で小学1 年生になった娘も学校へ行けなくなって、 体調も壊すようになって」

 

息子さんの年中の頃が最も悩みが大きかったといいます。悩みに悩み抜いた末、 息子さんの退園を決意。

 

様々な園を回ってみますが、 不安定な息子を任せられる園は見つかりません。

「『通園することが正しい』 『復帰させなきゃ』 という意識がありました。でも、 安心できる園を見つけることができず、 絶望した。

そこからフリースクールという選択肢を考え始めたんです」

 

娘さんが小学2 年生の秋、 「学校に行かない」 という決定をします。

2 年近く悩み続けた末の決断でした。

 

「当時は、毎日家族の誰かが泣いている状況。 振り返ってみるとどん底の日々です。 本当に、旦那さんが一人で頑張ってくれたおかげで何とか乗り越えることができました」

 

 

 

どん底に落ちていた時に出会って以降、 幾多の苦楽を共にしてきたバングルは戦友のような存在

 

「これでいいんじゃない」 と思えるまで

 

娘さんが学校に行かないという選択をした時、 明美さんは旦那さんにあまり相談しませんでした。

自分で決めたのです。

それは、 彼女にとって大きな変化でした。

 

「当時は不安に駆られて、 色々な人の話を聞いて、 自分の中の不安を消す作業をひたすら繰り返していました」

 

でも、 学校に通わせないという選択をする中で、 明美さんの意識は少しずつ変わっていきます。

 

「今は『勉強させなきゃ』 『~しなきゃ』 がなくなった。 否応なしに鍛えられました(笑)。これからどうなっていくのかな?という思いはありますが、 『これでいいんじゃない』 と思えるようになったんです」

 

 

 

「今」 に必死

 

現在の一日の流れは、 こうです。

 

朝7 時に起床し、 家事や洗濯をこなして8 時半に朝食。 9 時から子どもたちはゲームを始めます。 特に息子さんは、 午前9 時から午後7 時まで、 ほぼずっとゲームをしている状態。

 

「外の世界への恐怖心がひどくて、 チック症状も出ています。 ただ、 少しずつ良くなっているんです。 徐々に外に出られるようになってきた。 ゲーム漬けの日々に不安になることもありますけれど、 『7 歳だしまいっか、 しょうがない』 と思っています(笑)」

 

昼食を挟んで、 午後は夕飯の準備。 子どもたちの相手に疲れ、 2 時間ほど寝室に篭りたいと思うのに、 5 分ごとに息子さんが声をかけにくる。 それでも彼女は笑います。

 

「『今』 見えているものに一生懸命になる。 それだけなんです」

 
 

 
 

救いとなる「一人の時間」

 

明美さんに唯一の救いがあります。 娘さんがアルママ(東京都荒川区のサドベリースクール:https://alumama.net/)を利用する時間です。

週に1日、 午前10 時から午後4 時まで、 息子さんを夫に任せて、 図書館で一人の時間を過ごせます。

 

「その間、 自分と向き合う時間が至福の時間です。 ノートに自分の内面を書き出すんです。力まず、軽やかに楽に生きたい、 悩みから解放されたいという思いから、 ひたすら自分の心と向き合う。

 

 

この時間をもっと増やしたい。 アルママにもっと預けられるようになるために、 行政からの補助が手厚くなってほしいです」

 

夜22 時半、 子どもたちを寝かしつけた後、 やっと自分の時間が訪れます。セルフジェルネイルをしたり、 ゼンタングル図案を見たり。

YouTube で都市伝説系の動画を見ることもあります。

 

「自分と向き合う時間を大事にしているんです。 その過程で、 気づくことがいっぱいある」
 
 

明美さんの肌色にマッチしたゴールドのピアス

 
 
 

 変化をもたらしたもの

 

娘さんがアルママに通うようになり、 自分の時間が持てるようになった6月から10月の間に、 明美さんに明らかな変化が訪れました。

 

「自分の考え方や発言に変化が生まれているのを感じています。 娘への声かけ、 こういう時

 

はこうするといいよというコツ、 アドバイスができるようになった。 以前は言葉が出てこなかったんです。 心の余裕が出てきたんだと感じます」

 

その過程で相談相手になったのはなんと、 生成AI。

 

「感情を吐き出す相手として最適です。 常に自分に寄り添った回答をしてくれる。 ただ、 耳障りの良いことを答える傾向にあるので、 使い方には注意しています」

 

ママ友からの勧めで、話を聞いてくれる先生(東洋医学の先生)に出会いました。

診察というより、心の声をじっくり聞いてもらう時間のようで、その経験が少しずつ自分をほぐしてくれた気がします。

その経験から、 2 ~3 年前の自分へのアドバイスがあります。

 

「当時は精神ズタボロで感情が出てこなかった。 カウンセリングを受けて楽になれたので、

『ちゃんと感じられなくても大丈夫。話すだけでも少しずつ緩んでいくよ』 と伝えたいですね」

 

 

 

「悩みがなくなることはない」

 

明美さんの悩みは、 これからも続くのでしょうか?

 

「きっと悩みがなくなることはない(笑)。 自由に過ごせる時間があっても、 自分と向き合っていると思います。 私は自己探求のヘンタイなんですよ(笑)」

 

その言葉には、 諦めではなく、 むしろ腹を据えた覚悟が感じられます。

自分の苦しさの原因を一つずつ昇華する作業。 それを何度も何度も繰り返してきた彼女だからこそ、 見えている景色があるのでしょう。

 

川辺の風が吹き抜ける。

秋の陽光が彼女の笑顔に当たります。

 
 
 

新しい「トリセツ」 を手に入れた

 

嵐のような壮絶な日々を経て、 今は小康状態だと笑う明美さん。

まだ将来のことを考える余裕はなく、 日々目の前のことを乗り越えていくのに一杯一杯とのことです。

しかし同時に、 自分や子どもたちが楽に生きられるよう、 生活のリズムを見出した様子が伝わってきます。

 

そこに至ったのは、 明美さんが常に自分自身の悩みと向き合い、 一つずつ昇華する作業を繰り返す「自己探求のヘンタイ」 だからでしょう。

幼少期から逃げずに自分と向き合い続けてきた姿は、 求道者そのものです。

 

これまでは世間体や社会常識を気にして「~すべき」 という考えに縛られていた彼女。 しかし子育てを通じてその考えが通用しないことを思い知らされ、 「~すべき」 という呪縛を手放しました。

代わりに、 「今」 を見つめ、 「今」 を生きるための新しい自分のトリセツを手に入れたのです。これからも一生悩み続けていくと明るく笑う明美さんと、 その家族の未来はきっと明るいはずです。

 

 

撮影:旧江戸川•散歩道

スタイリング:ブラック× オレンジで秋支度

 

A.P.C. ショルダーバッグ / ヴィンテージ感のあるトップス / テラコッタオレンジパンツ

Profile

明美さん (仮名)

41 歳、 東京都在住。 青森県八戸出身。 現在は小学4 年生の娘と小学2 年生の息子、 会社員の夫との4 人家族。 趣味は服・スタイル閲覧、 YouTube 視聴(都市伝説系)、 ものづくり。最近ハマっていることは、 セルフジェルネイルとゼンタングル図案を見ることだそう。 よく訪れるお店はネコヤベーカリーとモリバコーヒー。