珍しく自分の話をします。 私は大学を出て少しだけ働いて、でも会社が肌に合わなかったのですぐに辞め、コピーライターの学校に通いました。 そして、ほとんどの期間をフリーランスの形で仕事をして生きてきました。
フリーといえば聞こえはいいのですが、仕事があればコピーライター、仕事がなければ無職です。 当然生活は安定しません。 アシスタント時代はびっくりするほどの薄給で、夜も寝ずに頑張りました。 そこからフリーランスになったとたん収入が五倍ぐらいに増え、木造モルタルのアパートを出てマンションに住めるようになりました。
逆にバブルが崩壊したときには年収が半減しました。 リーマンショックでもひどい目に遭いました。 そのときどきの景気や仕事の流れが影響し、まるでジェットコースターのような人生です。
うまく行くときはいいのですが、ひとたび何かが起きると不安になります。 将来のことが心配になり、精神を病みかけたこともありました。 鬱までは行かないにしろ、パニック的な症状も現れ、自分の心を安定させることに必死でした。
そんなときに出会ったのが仏教です。 仏教的な物事の捉え方に惹かれ、本を読みました。 般若心経も覚えて暗唱できるようになりました。 いろいろピンチはあったけれど、思えば仏教的な思考にずいぶん救われたように思います。
仏教の根底にあるのは諦観や達観といった考えです。 人間生きていればいろんなことが起こります。 その中には自分の手に負えることもありますが、負えないこともあります。 そんなときはジタバタしても始まらない。 状況に抗わずにすべてを受け入れ、仕方ないと諦める、それが諦観や達観の心だと思います。
般若心経にもありますが、この世はそもそも空であり、何もない。 不安や心配はすべて人間の頭と心が作り出すもので、だから経を唱えて無心になれば、不安や心配も消滅すると考えるのです。
「仏の心」という言葉があるけれど、仏教のことを知るうちに、実は「仏」は「ほっとけ」なのではないかと思うようになりました。 世の中なるようにしかならないのだから「ほっとけ、ほっとけ」と、仏は言っているように思えます。 自分で勝手に作り出した不安や心配で頭を悩ませる必要はまったくないのだと。
子どもが不登校になると、いろんなことが心配になりますよね。 でも、そういった心配の多くは、実際に起きる前に親が勝手に作り出していることが多いのです。 ゲーム三昧で依存症になったらどうしようとか、歯を磨かないと虫歯になるんじゃないかとか、まだ高校生ぐらいの年齢なのに、ひきこもりになって8050問題になったらどうしようとか、未来のことに頭を悩まされているのです。
心配し始めると切りがありません。 そして心配しすぎると自分の心が潰れてしまいます。 そんなときはひとつ「仏の心」を思い出し、「ほっとけ、ほっとけ」と唱えてみてはいかがでしょうか。 案ずるよりも産むが易しというように、大抵のことは心配するより放っておく方がうまくいきます。
文・蓑田雅之
おはなしワクチン
蓑田 雅之(みのだ まさゆき)
コピーライター。一般社団法人楽習楽歴代表理事。
「東京サドベリースクール」の元保護者。子どもがオルタナティブスクールに通うようになり、従来の学校教育のあり方に疑問を持ち、教育分野の研究に着手。自立した人間を育てるための保護者のあり方を探究するとともに、各地でお話し会を開催。また、企業や保育園・幼稚園にて、不登校を理解するための「おはなしワクチン」の活動を続けている。
著書『もう不登校で悩まない!おはなしワクチン』『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』(共にびーんずネット)