不登校とバス旅行、なんの関係もなさそうですが、よくよく考えてみると結構共通点があるのです。
まず、想像してみてください。あなたはこれからバスツアーでAという温泉地に向かいます。ツアーには添乗員が同行するので、あなたは何もしなくていい。バスの座席にゆったり座り、到着地に着くのを楽しみに待てばいいのです。
ところがです、途中でなぜか具合が悪くなってきた。どうも車酔いになったようで、胸がムカムカして吐き気がする。それを添乗員に伝えると、バスを止めるわけにはいかないから、このまま我慢して乗っているか、それができなければ降りてくださいと言われます。それであなたはしばらく頑張ってバスに乗り続けますが、どうにも吐き気が収まらず、とうとうバスを降りるはめになりました。
見知らぬ土地に降り立ち、行ってしまったバスの背中を見つめるあなたは、たぶん不安でいっぱいでしょう。夢に見た温泉地に、どうやって行けばいいか分からないからです。恐らく、子どもが不登校になった当初の親の気持ちは、こんな感じなのでしょう。先の見えない不安、温泉地に行けない絶望、どうやったらこの先前に進めるのか分からずに、呆然と道ばたに立ち尽くしているのです。
でも、よくよく考えればここは日本。まったく言葉の通じない外国ではありません。近くに歩いている人に道を尋ねることもできるし、鉄道の駅だってあるかもしれない。もしかすると親切な人がいて、近くの駅まで送ってあげましょうかという人が現れるかもしれない。バスは酔ってしまうけど、電車や乗用車なら大丈夫かもしれない。苦労したり遅れてしまうかもしれないけれど、目的地である温泉地のAにたどり着くことは不可能ではないのです。
そしてもうひとつ、よくよく考えれば、何も温泉地はAだけではないはずで、バスを降りたその場所からBやCの温泉地が近いかもしれない。そこになら、そんなに苦労しなくても行けるかもしれないし、実際に行ってみたらAよりもいい感じの風情があって、むしろよかったということがあるかもしれません。
もちろん問題なくツアーバスに乗り、Aに行って楽しい時をすごす人もいるでしょう。でも、添乗員もいなくなり、とぼとぼ田舎道を歩き、電車を乗り継いでたどり着いた温泉地が素晴らしいところである可能性もあるのです。
子どもが不登校になった! 確かに当初は困惑し、途方にくれ、いいようのない不安に駆られるかもしれません。でも、そこから自分の足で歩き出し、人情に触れながら田舎道を歩き、たどり着いた温泉地は、バスツアーでは味わえない素晴らしい体験をもたらしてくれるのです。
不登校を経験した多くの人が、大人になってから、あの経験は決して無駄ではなかったと語っています。むしろ不登校を経験したからこそ、自分の人生は豊かになった、そう考える人も少なくありません。子どもだけではなく、親も同じです。子が不登校になったおかげで、自分の人生を見つめ直すことができた、そんな言葉を笑顔とともに語る親はたくさんいます。
学校というバスを降りた皆さん、案ずるより産むが易しです。道は必ず続いています。バスに戻ることばかりを考えず、途方にくれて立ち止まらず、自分の足で歩いてください。ツアーのバスに乗っていては決して見えない素晴らしい景色に出会えることでしょう。
文・蓑田雅之
おはなしワクチン
蓑田 雅之(みのだ まさゆき)
コピーライター。一般社団法人楽習楽歴代表理事。
「東京サドベリースクール」の元保護者。子どもがオルタナティブスクールに通うようになり、従来の学校教育のあり方に疑問を持ち、教育分野の研究に着手。自立した人間を育てるための保護者のあり方を探究するとともに、各地でお話し会を開催。また、企業や保育園・幼稚園にて、不登校を理解するための「おはなしワクチン」の活動を続けている。
著書『もう不登校で悩まない!おはなしワクチン』『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』(共にびーんずネット)
おはなしワクチン|不登校をバス旅行にたとえてみた。
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